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2022年6月14日から17日、2022年度人工知能学会全国大会がハイブリッド開催されました。同大会の14日には、RPGの演出を自動生成する研究と物語構造分析に関する研究が発表されました。本稿では、これらの研究を物語自動生成研究に関する基礎と応用と位置づけてまとめていきます。
シナリオ・音楽・背景画像を自動生成して統合
公立はこだて未来大学の奥山凌伍氏は、「ゲームシナリオ・音響効果・背景画像の作成補助を行う自動生成ゲームシステムの構築」と題してRPGの演出を自動生成する研究を発表しました。同氏によると、この研究のねらいは人間のクリエイティブな活動を支援するAIの開発であり、RPGをテーマに選んだのはこのゲームジャンルにはテキストで表現できるゲームシナリオに加えて、音楽と画像による複合的な演出がなされるという特徴があるからです。こうしたRPGの演出を自動生成するとは、シナリオ、音楽、背景画像をそれぞれ自動生成するAIを開発して統合することを意味します。
シナリオプロットを自動生成するにあたっては、テーマを「精神的問題とその解決」と設定したうえで、テーマに沿った先行作品を分析してシーンごとに物語における機能を抽出しました。その結果、3種類の問題と3種類の解決方法が抽出されました。こうした機能を3~7個組み合わせることで、プロットを自動生成しました。
戦闘開始時のセリフの自動生成も試みました。この試みのために、RPGの戦闘時におけるセリフ事例を収集して機能分析を行い、11種類の意図と4種類の感情を抽出しました。これらの機能の組み合わせのなかから、カイ二乗検定を行って優位に多い組み合わせを特定しました。こうした出現確率の高いセリフのテンプレートを作成した後、そのテンプレートを適宜出力することでセリフの自動生成を実現しました。
楽曲の自動生成に関しては、ゲームシーンに相応しい楽曲を選択するためにそのシーンの雰囲気をHevnerが提唱した音楽が喚起する印象語群にもとづいた8次元情報に変換しました。この情報を入力値として、BPM、Spectral centroid、Chroma Vectorから構成される6次元情報とZero crossing rateから算出される11次元情報を出力するふたつのニューラルネットワークを構築しました。このニューラルネットワークが出力する音響特徴量と近似している楽曲が、ゲームシーンにふさわしい楽曲となるのです。
さらに選択した楽曲をループ再生するために、楽曲をその特徴に応じて5種類のメロディパートに分けるクラスタリングを実施しました。そして、クラスタリングされたブロックを基準としてループ音源を生成しました。
背景画像の自動生成については、まずオブジェクト配置案に関するデータセットを作成しました。そして、オブジェクトを配置する部屋のサイズとオブジェクト数に関する標準偏差を算出したうえで、極端な値などのために不適切なデータをそのデータセットから除外しました。こうして用意された適正なデータセットを使って、オブジェクト配置に関するパラメータをテキストデータとして出力するようにしました。このテキストデータを入力値として、3DCGのオブジェクトを配置した背景画像を生成しました。極端な値のパラメータはあらかじめ除外されているので、不自然な背景画像は生成されません。
発表の最後に奥山氏は、以上のようにして自動生成したゲームシナリオ、音楽、背景画像を統合したゲームデモを披露しました。そして、今後の研究方針として自動生成する創造的要素を増やしていくこととRPG以外のゲームジャンルにおける自動生成を目指すことを挙げました。
星新一作品における伏線とオチの類型とは?
公立はこだて未来大学の岩崎潤哉氏は、「星新一のショートショートにおける伏線とオチの構造分析」と題して星新一作品の物語構造を統計手法によって明らかにする研究を発表しました。
岩崎氏によると、伏線とオチをふくんだ物語の自動生成に関する成功事例はまだありません。というのも、伏線とオチが成立するためには伏線とその機知に富む回収という高度にコンテクストに依存した物語構造が不可欠となるのですが、そうした物語構造に関する分析が進んでいないからです。こうしたなか同氏は伏線とオチの構造を解明するために、星新一の諸作品を研究素材に選びました。星新一作品を選んだ理由は、短編が多いうえに意外な展開をふくむものが多いからでした。
岩崎氏の研究は星新一の作品から薬を題材にした77編を選定したうえで、それらに対して伏線とオチに関するタグを付けていくことから着手しました(タグ付けは重複が許容されます)。こうしたタグ付けを通して、類似する伏線とオチをもつ作品ごとにカテゴリ分けしました。
以上の最初のカテゴリ分けでは、伏線を65種類、オチを28種類に分類しました。こうした分類は「初期カテゴリ」と命名されたのですが、それらは以下の画像のような内容でした。
ついで伏線とオチを統計分析しやすいように、初期カテゴリをその内容に応じて統合しました。統合した結果、伏線とオチはそれぞれ5つのカテゴリにまとめられ、それらは「大カテゴリ」と呼ぶことにしました。大カテゴリの内容は、以下の画像のようになりました。
以上のようにしてまとめられた伏線とオチに関する大カテゴリについて、共起分析と因子分析を行いました。共起分析を行えば、特定のカテゴリと同時に現れるカテゴリが特定できるので、伏線とオチの結びつきを明らかにできます。また、因子分析を行えば、大カテゴリに潜在する伏線とオチが結びつく構造が分かります。
共起分析の結果、例えば「一時的利益」という伏線がオチの5カテゴリすべてに対して共起することがわかりました。この分析結果が示唆しているのは、星新一のショートショートでは何かしらの利益を得たあとにオチに向かって展開するというのが典型的なストーリーテリングである、ということです。そのほかでは、オチカテゴリの「終末」と「皮肉」が共起することから、皮肉な原因による終末の描写という展開も顕著に現れることもわかりました。
また因子分析の結果、星新一作品のストーリーテリングを特徴づける以下のような3つの因子を発見できました。
- 第一因子「種明かし因子」:繰り返しの表現で展開を予想させた後に、未知の情報で予想を裏切る物語構造
- 第二因子「転落因子」登場人物が利益を得ている様子について情報を隠さずに描写した後、その様子に対する皮肉な結末を迎える物語構造
- 第三因子「無駄骨因子」繰り返しの表現で展開を予想させた後に、それまでの繰り返しが無価値となるような出来事や情報をオチとして提示する物語構造
岩崎氏は、今後の研究課題として今回明らかになった伏線とオチに関する物語構造にもとづいた物語の自動生成に取り組むことを挙げて発表を終えました。
「泣ける」作品に共通して見られる特徴
公立はこだて未来大学の福元隆希氏は、『物語構造分析に基づく「泣ける」と評価される物語の分類とパターン抽出』と題して「泣ける」物語に共通する物語構造の分析について発表しました。
福元氏の発表は、「泣ける」物語研究の背景の説明から始まりました。人気の高い映画やアニメは、しばしば「泣ける」という評価を受けます。こうしたなか、「泣ける」物語構造に関する計量的な特徴を調査した研究はほとんどありませんでした。もしこの「泣ける」物語の構造を明らかにできれば、その知見を泣ける物語の自動生成やシナリオ執筆などに応用できます。
つづいて福元氏は、研究対象となる「泣ける物語作品」の選定方法を説明しました。その選定方法とは、以下のような3つの条件を満たす物語作品を特定するというものでした。
- (条件1):インターネット投票サイト「みんなのランキング」において、泣ける物語作品として上位30以内である。
- (条件2):漫画・小説の原作が存在する。
- (条件3):(分析者が)涙を促すと考えられるシーンが5回以上存在する。
以上のような選定条件を満たす物語作品として、以下のような4つの作品が選定されました。
4つの物語作品の構造分析にあたっては、2種類のカテゴリ分けが実行されました。1つ目のカテゴリ分けは、物語作品におけるストーリーテリングを成立させている物語機能カテゴリをシーンごとに割り振っていく作業です。物語機能カテゴリには、以下の表に示すようなものが使われました。
2つ目のカテゴリ分けは、泣けるシーンに特有な特徴を表すタグを割り振っていく作業です。そうした泣けるシーン用カテゴリには、以下の表のようなものがあります。
以上の2種類のカテゴリ分けに加えて、シーンごとに主語と目的語を追記した物語構造表を作成しました。この表を見ると、泣けるシーンにおいて誰が何をしているのかという状況理解と、前後のストーリーテリングと泣けるシーンの特徴がわかります。
以上にようにして割り振られたカテゴリを集計すると、物語作品の特徴が浮かび上がります。各物語作品の泣けるシーン用カテゴリの集計は、以下のグラフのように表せます。このグラフから『ヴァイオレット・エヴァ―ガーデン』と『夏目友人帳』は、ともに「辛苦」と「絆_負」のカテゴリが多い点が共通していることがわかります。
泣けるシーン用カテゴリを物語機能カテゴリごとに集計すると、以下のようなグラフが得られます。このグラフから、泣けるシーンと同時に現れる傾向が強い物語機能カテゴリがあることがわかります。例えば物語機能「発覚」は泣けるシーンともっとも同時に現れますが、この傾向は何らかの秘密が明かされることで涙を誘うストーリーテリングが多いことを意味しています。
さらに泣ける物語作品とその作品と同ジャンルの(涙を誘うわけではない)通常の作品の比較も行いました。比較する通常の作品として以下の表にまとめたようなものを選定したうえで、泣けるシーンの直前におけるそれぞれの作品の物語機能をカイ二乗検定を用いて比較しました。
以上の比較の結果、物語機能「発覚」「意思」「関係変化_人間関係」「災難」は泣けるシーンの直前で有意に多くなる傾向がある一方で、「出現」「妨害」「対決」は有意に少なることがわかりました。この結果は、ストーリーテリングのうえで隠されていた情報の「開示」や意思の「表示」によって鑑賞者の共感を喚起することで涙を誘っている、と考察できます。対して「妨害」や「人物の出現」は、涙を流すことを阻害する物語機能だと言えます。
発表の最後に福元氏は今後の研究課題として、「泣けるシーン」における程度の発見(より強く、あるいは弱く「涙を誘う」シーンがあるのか)、鑑賞者の属性と「泣けるシーン」の関係の発見(例えば男性がよく「泣く」シーンというのが存在するのか)などを挙げました。
以上の3つの研究発表を物語自動生成という軸でとらえ直すと、奥山氏の研究はRPGという具体例に取り組んだ応用研究、岩崎氏と福元氏のそれは特定の物語構造に関する基礎研究と位置づけられます。物語構造に関する基礎研究が進めば、さまざまなジャンルの物語を自動生成するためのフレームが整備されていきます。物語の自動生成は、今後も基礎研究と応用研究が両輪となって進展していくことでしょう。
Writer:吉本幸記
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