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Tuesday, March 3, 2020

「正社員にする詐欺」に憤る男性 さまざまな口実で約束を反故に - livedoor


40代で介護職員になったセイジさん。業界に身を置いたのは3年足らずだが、違法な働かせ方が横行する実態に驚いたという(筆者撮影)

現代の日本は、非正規雇用の拡大により、所得格差が急速に広がっている。そこにあるのは、いったん貧困のワナに陥ると抜け出すことが困難な「貧困強制社会」である。本連載では「ボクらの貧困」、つまり男性の貧困の個別ケースにフォーカスしてリポートしていく。

今回紹介するのは「今月、転職に成功し、かろうじて財政再建の目処がつきましたが、求人詐欺に遭い騙され続けた介護業界の劣悪待遇をお話ししたいと思ってます」と編集部にメールをくれた、47歳の男性だ。

「求人詐欺、『正社員にするする』詐欺、生活保護と変わらない低賃金――!」

そう憤るのは、40代半ばで介護業界に転職したセイジさん(仮名、47歳)。自ら経験した劣悪待遇についてぜひ話を聞いてほしい、と続けた。

試用期間を延長され続け、正社員になれない

セイジさんは3年前、ハローワークで「雇用形態 正社員、賃金 17万〜28万円」と書かれた求人票を見て、早速ある高齢者施設の面接を受けた。その場で採用が決まったものの、出勤初日「最初の3カ月は試用期間。その間は時給制です」と告げられた。


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時給は950円。月収は17万円に届かない。正社員にはあると言われた住宅手当や家族手当もなし。さらに3カ月が過ぎると、試用期間を延長すると言われ、その後もさまざまな口実でもって正社員化の約束を反故にされた。

実際の待遇が求人票の内容と違う“求人詐欺”。「話が違うと思いました。でも、少しでも早く仕事を見つける必要があったので、(条件に)応じざるをえませんでした」。

試用期間を延長されるたびに「車いすのブレーキをかけるとき、目視確認をしていない」「(入居者の)体の下に敷くタオルのしわを伸ばしていない」などと指摘されたという。しかし、セイジさんに言わせると、「ブレーキ確認を怠ったことについては身に覚えがありません。タオルのしわは、逆に完璧にできている職員なんていませんよ。(人件費がかかる)正社員にしないための揚げ足取りとしか思えませんでした」。

また、セイジさんには夜勤はなかったが、施設では夜勤明けを休日にあてる勤務ダイヤを組んでいたという。夜勤は21時から翌朝7時まで。労働基準法では休日は暦日(0時―24時)を基準としており、夜勤明けを休日とみなすことは原則違法である。職場は週休2日だったが、そのうちの1日は夜勤明けで、まともに休めるのは1日だけだった。

「体はしんどいけど、みんな夜勤をやりたがるんです。だって夜勤手当がないと生活できませんから。私も夜勤を希望しましたが、(新人だったので)入れてもらえませんでした」

ボーナスは出たという。しかしセイジさんはこう言って切り捨てる。「施設の偉い人が忘年会で『皆さんにプライドを持って働いてほしいので、うちは非正規にもボーナスを出します』とあいさつしてました。でも、いくらだと思います? たったの5000円ですよ」。

1年後、セイジさんはこの施設を退職。最後まで正社員にはなれなかった。

しかし、転職先の施設はさらにひどかった。すぐに正社員採用すると言われていたのに、またしても試用期間を設けられた。時給は地域別最低賃金とほぼ同じ850円。仕事は訪問介護で、自家用車で移動したが、ガソリン代などは自腹だった。このため、実質的な手取り額は生活保護水準とほとんど変わらなかったという。

セイジさんは上司に時給アップを求めたが、「これが地域の相場だから」とかわされた。これでは生活できないと重ねて訴えると、あろうことか「ではダブルワークを認めます」と言われたという。セイジさんはリラクゼーションの民間資格を取り、休日などに施術をこなしては、家計の足しにしたという。

法令違反や不当な低賃金には、できれば声を上げるべきだと私は思っている。しかし、個人での交渉には限界がある。立場的に弱い働き手が1人で訴えても、経営者がよほどの人格者でもない限り、聞き流されて終わりだろう。ま、人格者であれば最初から違法な働かせ方などしないわけだが……。

いずれにしても日本国憲法は労働者の団結権を保障しているし、労働組合法もある。セイジさんは1人で訴える度胸があるなら、なぜ法律を利用しないのだろう。私の疑問に対してセイジさんは「もともと個人的に地域ユニオンに加入していました。1人でらちが明かなければ、ユニオンを通して団体交渉を申し入れるつもりでした」と説明した。

介護労働の実態について、最近は「賃金アップのための処遇改善加算が導入されたので、待遇はかなり改善された」といった声を耳にする。果たして本当にそうか。

今の介護保険制度では待遇改善を望めない

厚生労働省のまとめでは2018年、施設などで働く「福祉施設介護員」の残業代などを除いた「所定内給与額」は22万6300円で、産業全体の平均30万6200円を8万円近く下回る。勤続年数も7年と産業全体よりも5年以上短く、依然として人材が定着しづらい職場であることがうかがえる。

結局、セイジさんは団体交渉には踏み切らなかった。理由は「昨年末に条件のよい施設に転職することができたので」。正社員で、月給は約25万円。新しい職場は知人からの紹介で、待遇面では相当色をつけてもらっている、と打ち明ける。

団体交渉をしなかった理由はもう1つあると、セイジさんは言う。「施設の決算報告を見せてもらったら、人件費が7割だったんです。給料を上げろと言っても、これ以上出せる状態じゃない。待遇の悪さの原因は介護保険制度そのものにあるんじゃないかと思ったんです。今の制度では、誰が経営してもあくどいことをせざるをえない」。

介護職場の人件費率は他業種に比べて高い。そして、職員の賃金の原資は基本介護保険から支払われる介護報酬である。人件費率はめいっぱいなのに、低賃金――。これはもはや制度の構造的な欠陥なのではないか、というわけだ。

そもそも、セイジさんはなぜ40代半ばで介護業界に転職したのか 。


新卒で勤めた会社は長引く不況の中ですでに倒産したという。専門資格を取ろうという判断までは正しかったのだが……(筆者撮影)

いわゆるサラリーマン家庭で育ったセイジさんは、大学卒業後、宝飾品販売を手掛ける会社に正社員として就職した。すでにバブル景気は崩壊。将来、何らかの資格があったほうがよいと思い立ったセイジさんは会社を1年で辞めると、専門学校で医療機器の操作、点検を行う臨床工学技士の資格を取得した。

その後、セイジさんは複数のクリニックや医療機関に勤務。引っ越しをしたり、人間関係がいまひとつだったりすると、そのたびに職場を変えた。それでも、新しい仕事はすぐに見つかり、年収も400万円ほどを維持できたという。専門資格を持つ者の強みである。

ところが、40歳を過ぎたとき、「パワハラ上司との折り合いが悪かったので」、いつものように退職したところ、一向に再就職先が決まらなかった。原因は年齢だった。このため、介護職員初任者研修の資格を持っていたこともあり、やむをえず介護業界に転職したのだという。セイジさんは「年齢がネックになると思いませんでした。私の考えが甘かったです」と振り返る。

実は、セイジさんは結婚している。再就職を急いだ背景には、こうした事情もあった。妻は正社員で、年収は300万円ほど。世帯収入でみると、セイジさんは厳密には貧困とは言えないのかもしれない。ただ、介護職員になったことで、セイジさん自身の年収は半分以下に。妻にはそのことをどうしても打ち明けることができなかったという。

セイジさん夫婦はそれぞれに自分の収入を管理しており、支出面ではセイジさんが毎月5万円の住宅ローンと光熱費などを支払っていた。妻の手前、生活の質を極端に落とすわけにもいかず、足りない分は貯金を切り崩したという。昨年末に転職できたのは、300万円ほどあった貯金が底をついた、まさにそのときだった。

「妻に対しては罪悪感でいっぱいでした。うちは子どもがいないのですが、もしいたら隠し通すことはできなかったと思います。子どもがいなくてラッキーだったと、心底思いました。でも、失った貯金を元の金額に戻すまで、まだ安心はできません」

厳しい状況下、低賃金で働く介護職員たち

ふと私が初めて介護労働の過酷さを知ったのは、いつだったろうと思った。それは十数年前。ある特別養護老人ホームで起きた虐待事件を取材したことがきっかけだった。一部の介護職員が認知症の入居者らを虐待しているとして、加害者らの同僚でもある介護職員の女性2人が、所管の自治体に内部告発をしたのだ。

食事が遅い入居者の後頭部をたたき、痛がって「わーん」と口を開けたすきにスプーンを突っ込む。ベッドから起き上がろうとする入居者の肩を押すという行為を繰り返し「おきあがりこぼし」と言って笑う。柔道の技をかけて遊ぶ――。私自身の取材でも、虐待の事実は裏づけられた。だから当初私は、加害者たちは人間のクズだと思った。

しかし、さらに話を聞き進めると、介護職員のほとんどが最低賃金水準の非正規労働者であることもわかった。シングルマザーの中には生活保護水準を下回る収入の人もいたし、夜間にスナックのアルバイトを掛け持ちせざるをえない女性職員もいた。

介護職員は時に認知症の入居者から引っかかれたり、蹴られたりと、彼ら自身が“虐待”される側になることも知った。その対価が生活保護水準と同じなのだとしたら……。私だったら虐待行為に走らずにいられるだろうかと、自問せずにはいられなかった。

当時、施設側は虐待の事実を認めず、内部告発者や、問題を他社に先駆けて報じた私、勤務先の新聞社などを名誉棄損で提訴。余談だが、私は自分が訴えられた記者会見を自分で取材する羽目になった。裁判は最高裁まで争われたが、しょせんはスラップ訴訟にすぎず、いずれも被告側が勝利。遅ればせながら、自治体も虐待行為はあったと認定した。

介護労働の劣悪さは労働者だけの問題ではない。サービスの質に直結するし、最悪虐待を誘発する。それは、将来こうした施設を利用する可能性のある“私たち”の問題でもある。一連の取材を通し、そう痛感した。

それから十数年。確かに現場の待遇は改善傾向にある。しかし、セイジさんの話を聞くにつけ、根本的な問題は解決していないようにもみえる。虐待事件も後を絶たない。多分、表ざたになるのは氷山の一角だろう。

虐待行為はおぞましい。ただ、同時にこうも思わずにいられないのだ。彼らの給料はいくらだったのだろう、雇い止めにおびえてはいなかったか、暮らしに余裕はあったのか。何より働きに見合った敬意は払われていたのだろうか、と。

本連載「ボクらは『貧困強制社会』を生きている」では生活苦でお悩みの男性の方からの情報・相談をお待ちしております(詳細は個別に取材させていただきます)。こちらのフォームにご記入ください。

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