記憶があいまいだったり忘れてしまったりしたことを自覚できるニューラルネットワーク(NN)を作り出すことに成功したと、名古屋大大学院情報学研究科の有田隆也教授(62)=複雑系科学=らの研究グループが発表した。人間が持つ「メタ記憶」と呼ばれる機能で、NNが自ら進化して獲得したという。有田教授は「人らしい心や意識を持つ人工知能を実現させるための手掛かりになるのでは」と話している。
NNは脳の神経活動を模したコンピューター内の数理モデルで、NNを使った人工知能技術の研究が進められている。一方、メタ記憶は「きのうの晩ご飯、なに食べたんだっけ」などと記憶の有無を調べたりコントロールしたりする時に働く認知機能。人間以外の生物にもメタ記憶があるかについて論争が続いている。
研究グループは、「00010」のように1カ所だけ「1」でほかは「0」の数列五つのうち一つをNNに記憶させた上で、ニューロン間のつながりの強さを変化させたりするノイズを加えて「忘却」が起こりうる状態にした。
その後、五つの数列から同じものを選ぶ課題を繰り返し解かせ、正解には1点、誤答には0点の報酬を与えた。その際、課題を見た上で回答しないことを選べる「回避権」を3分の2の確率で与え、回避した場合は0・3点の報酬を受け取れるようにした。
ノイズを加えない場合は、回避権の有無にかかわらず正解率はほぼ100%。ノイズを加えると、回避権があるNNは約60%の課題を回避し、回答した場合の正解率は約90%だった。回避権がなく強制的に回答させられたNNの正解率は約60%と低かった。
さらにその2倍のノイズを加えると、回避権があるNNは約70%で回避して正解率は80%と高い水準を維持した。これに対し回避権がないNNの正解率は、約40%とさらに低下した。
NN内で何が起きているかを検証したところ、人間が記憶のありかを探すように、NNも自らの記憶を探る作業をして、正解を忘れてしまったり記憶があいまいだったりした場合は回避権を行使していることを確認した。
研究グループは、高得点を上げたNN同士が、動物が子孫を残すように交わって新たなNNを生み出す世代交代を繰り返させており、新世代が獲得した報酬の平均は初期の世代の約1・5倍に上昇した。だが意外にも、メタ記憶を獲得したNNは、むしろやや得点の低いものだった。このことから、有田教授は「記憶力がやや劣る個体がメタ記憶を獲得するよう進化しやすいのではないかという観点を、実際の生物の研究にも提起できるのではないか」と話している。
この研究結果は、国際科学誌「サイエンティフィック・リポーツ」のオンライン版(4月26日付)に掲載された。【荒川基従】
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