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量子コンピューターは、数百万個の物理量子ビットが実装され、量子ビットの誤り訂正技術が実現する2030年代以降にならなければ、実用化は難しいとされる。開発の難所を乗り越えるため、各企業がどのような努力をしているのか。その実態が2023年7月に東京で開催された「Q2B23 Tokyo」で垣間見えた。
量子コンピューター開発は現在、実用化に向けた準備を進めている段階にある。量子コンピューターのメーカー各社は、量子ビットの数を現在の数十個から2020年代後半には1000個以上に増やすとのロードマップを描いている。しかし量子誤り訂正技術については、実現へのロードマップが描けていないためだ。
そうした中、量子ビットを制御する量子コントローラーを開発する企業や、量子コンピューター向けのソフトウエアを開発する企業も、量子誤り訂正技術や量子ビットの誤りを抑制する技術などの開発を独自に進めている。
つまり量子コンピューターの実用化に向けては、ハードのメーカーだけでなく、周辺にあるコントローラーやソフトウエアなどエコシステム(生態系)を開発する企業の取り組みが重要な鍵を握っている。そんな実態が、7月19、20日に開催されたQ2B23 Tokyoで浮かび上がった。
各社における取り組みの具体像を、Q2B23 Tokyoでの講演内容に基づき、詳しく見ていこう。
超電導方式とダイヤモンドスピン方式を手掛ける富士通
量子コンピューターのハードウエアを開発するメーカーとしては、富士通や英米Quantinuum(クオンティニュアム)、英Universal Quantum(ユニバーサルクォンタム)などが登壇した。
富士通からは量子研究所長の佐藤信太郎氏が登壇した。同社は超電導方式の量子コンピューターを理化学研究所と共同開発しているだけでなく、ダイヤモンドスピン方式をオランダのデルフト工科大学と共同開発している。佐藤氏は両方式の開発動向やロードマップを解説した。
超電導方式に関しては、2023年3月に理研や産業技術総合研究所、大阪大学などと共同で、クラウド上で量子コンピューターを利用できる「量子計算クラウドサービス」を開始している。理研などと開発を進めるハードウエアの特徴は高い拡張性であるとし、「1000量子ビット相当であれば基本設計を変えることなく対応できる」(佐藤氏)とした。
量子ビットのエラーを抑制する技術については米Keysight Technologies(キーサイト・テクノロジー)と、量子誤り訂正技術については阪大と共同研究を進めている。今後は2025年に256量子ビットの実現などを、2026年に1000量子ビット以上の実現を目指す方針だ。
ダイヤモンドスピン方式については、「まだ基礎的な研究レベルにとどまるが、将来を見据えて開発している」(佐藤氏)と述べた。超電導方式は量子ビットを絶対零度に限りなく近い約10ミリケルビンの極低温に冷やす必要があるのに対して、ダイヤモンドスピン方式の量子ビットは1~10ケルビンの環境で動作できるため、冷却負荷を減らせるといったメリットがあるとした。
量子ビット間を全結合できるイオントラップ方式
クオンティニュアムやユニバーサルクォンタムはいずれも、イオントラップ方式の量子コンピューターを開発するメーカーだ。
クオンティニュアムの岸田圭輔テクニカル・ソリューション・スペシャリストは同社の方式の特徴について「(量子ビットを構成する)イオンを直接動かすことで、量子ビットの全結合を実現している」と説明。量子ビットの結合が限定的である他方式と比べて、量子ビットが全結合している同社の方式では計算に必要となる量子ゲート操作を大幅に減らせるメリットがあるとした。
ユニバーサルクォンタムのSebastian Weidt(セバスチャン・ヴァイト)CEO(最高経営責任者)は、同社の開発するイオントラップ方式の量子コンピューターにおいては、量子プロセッサーのチップと、量子プロセッサーを制御する半導体チップとを垂直的に統合していることなどを説明した。
同社は複数の量子プロセッサーを接続する技術も開発しており、垂直統合型の量子プロセッサーなども含めて「スケーラブルな量子コンピューターを実現するための技術だ」(ヴァイトCEO)とした。
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