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Sunday, February 23, 2020

イーロン・マスクはかくして人間の脳にコンピューターを縫い付ける | WIRED - WIRED.jp

アダム・ロジャーズ

『WIRED』US版副編集長。科学や、種々雑多な話題について執筆している。『WIRED』US版に加わる以前は、マサチューセッツ工科大学(MIT)のジャーナリスト向け奨学プログラム「ナイト・サイエンス・ジャーナリズム」の研究生に選ばれたほか、『Newsweek』の記者を務めた。著書『Proof:The Science of Booze』は『New York Times』のベストセラーに。

2019年7月16日夜、イーロン・マスクは自身の新たな挑戦について発表した。存在自体は2年前から知られていたものの、あまり情報が明かされていない事業だった。彼は、この取り組みによって人類の苦悩すべてに終止符を打とうと思っているわけではない。その多くを終わりしようとしているだけだ。しかも、それは近い将来ではなく、あくまで最終的な目標である。

発表会はわずか数日前にTwitterで開催が告知され、予定より30分遅れて始まった。会場は米サンフランシスコのカリフォルニア科学アカデミーだ。マスクはその舞台上で、自身のスタートアップ、ニューラリンク(Neuralink)による最初のプロダクトを披露した。発表されたのは、小さなコンピューターチップだった。チップには電極付きの極細ワイヤが取り付けられていて、それが高性能のロボットによって生きた人間のに縫い込まれる。2時間の発表のどこに着目するかによって、脳の仕組みを理解するための最先端ツールとも、神経疾患をもつ人々を助ける先進医療技術とも、人類の進化の次なる一歩とも呼びうるハードウェアだった。

チップはひとつずつ特注でつくられ、脳を構成するニューロン(神経細胞)同士の信号のやりとりを示す活動電位、いわゆる「スパイク」を受信し、処理する。チップとつながったワイヤが脳の組織に組み込まれ、スパイクを検出するのだ。そのワイヤは、ミシンのようなロボットによって、うらやましいほどの精密さで脳に縫い付けられる。脳表面にツタのように張り巡らされた繊細な血管を避けて「ニューラル・レース(neural lace、神経のレース編み)」が構築されるさまは、SFさながらだ。

ニューラリンクの技術がマスクや開発チームの思惑通りに機能した場合、ワイヤとチップによって人間の脳の至るところから信号を拾えるようになる。当面は体の動きを制御する一次運動野の信号を検出するが、いずれは対象を脳全体に拡げる計画だ。拾った信号は機械に解読可能なコードに変換し、コンピューターが理解できるようにする。用途としては、コンピューターや義足、義手の操作が考えられる。また将来的には、脳に情報を送り込んで目が見えない人の視力を補助することや、脳内に仮想の世界を構築することもできるかもしれない。マスクは舞台上で「こうしたことはすべて、とてもゆっくり起こると考えています」と言い、「ある日突然、ニューラリンクがこの驚異的なニューラル・レースを手にして、人間の脳を乗っ取るということではありません。長い時間がかかります」と説明した。

しかしこのテクノロジーは、実験と、米食品医薬品局(FDA)の承認と、さらなる進歩を経て、人間が超越的知性をもつ人工知能AI)と対話することを可能にするかもしれない。マスクはそういうAIの到来を確信している。彼は「悪意のないAIが生まれた場合でさえ、わたしたちは置き去りにされます」と指摘したうえで、「脳とマシンをつなぐ高帯域幅のインターフェースがあれば、(AIの進歩に)実質的に相乗りできます。AIと一体化するという選択肢をもてるのです」と続けた。

こうした説明はすべて、マスク自身のブランドイメージそのものだ。電気自動車(EV)メーカーのテスラとロケット開発企業のスペースXを経営するマスクは、テクノロジー上の印象的な進歩を捉え、誇大宣伝とは言わないまでも、物語の紆余曲折を一気に飛び越えて未来予想的な結末を示すことに非常に長けている(苦しんでもいるが)。それは、超一流の電気自動車をつくっただけで満足せずに自律走行車をつくることであり、ロケットを開発して宇宙ステーションに物資を運ぶだけでなく、火星に人類を送ることでもある。わくわくする話だ。

イーロン・マスクのさまざまな挑戦
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『ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)』が2年前にニューラリンクの存在を暴露して以降、テクノロジーと神経科学の世界では、マスクお抱えのブレイン・マシン・インターフェース(BMI)専門家チームの取り組みがしきりに話題にされてきた。スタートアップのカーネル(Kernel)やフェイスブックなども同じ技術を開発していると発表したが、どれもまだ研究段階で、臨床環境ではごくわずかしか使われていない。米政府で先端科学を所管する国防高等研究計画局(DARPA)は1970年代からブレイン・コンピューター・インターフェース(BCI)の開発に資金を投じ、2013年からは政府機関横断の「先進的・革新的神経テクノロジーを通じた脳研究(Brain Research through Advancing Innovative Neurotechnologies)」、略称「Brain」に参加している。

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マスクは、ゆくゆくは健康な人の脳にもデヴァイスを取り付ける計画だと語ったが、その言葉をどう評価すべきかは定かではない。彼は「希望としては、2020年末までに人間の患者にこれを取り付けたい」と言った。最初の被験者は有志の四肢麻痺患者が望ましく、チップは一次運動野(耳の上くらいから頭頂部へと延びている部位だ)に3個と、一次体性感覚野に閉ループ・フィードバックを行なうものを1個、合わせて4個取り付けるという。ただし、発表時に配られた(査読を経ていない)論文によれば、ニューラリンクの装置を脳に取り付けた事例はラット19匹のものしかないうえ、電極がうまく組み込めた割合は87パーセントにとどまっていた。人間に使用するまでには、FDAからもっと多くの事例を求められるだろう。

当然、実際に行われている実験はもっと多い。『WIRED』が19年4月に公開請求した公的記録によれば、ニューラリンクは数百匹のラットとマウスを研究施設で飼育する許可をとっている。また、予定にはなかったようだが、マスクはカリフォルニア科学アカデミーでの発表の際、研究がネズミからヒト以外の霊長類へと進んでいることを認めた。ニューラリンクはカリフォルニア大学デイヴィス校の霊長類研究センターと提携しているが、この事実が公になったのは「ギズモード」が情報公開請求をしたからだった。提携は進展しているらしく、マスクは発表後の質疑応答で「ちなみに、サルは自分の脳を使ってコンピューターを操作できています」と明かしていた。

この発言は聴衆だけでなく開発チームにとっても驚きだったらしく、一同は慌てているように見えた。ニューラリンクの社長、マックス・ホダックは舞台上のマスクの隣で、「その結果をきょう公表することは知りませんでした。でも、そういうことです」と語った(ニューラリンクのチップではおそらく初めてだが、サルがBCIを通じてコンピューターを操作した事例は過去にもある)。

なお、『WIRED』が18年8月に公開請求した「ギズモード」とは別の公的記録により、ニューラリンクが同年6月、カリフォルニア大学デイヴィス校との契約を更新したことが明らかになった。「ギズモード」の記事が出た1カ月後のことだ。両者の関係は必ずしも友好的とは言えない。『WIRED』が入手した複数の電子メールによると、同校に設置されたカリフォルニア国立霊長類研究センター(CNPRC)の所長、ジョン・モリソンはこの月、ニューラリンクが人材を奪おうとしていることに不満を漏らしていた。モリソンは同社宛てとみられるメールに、「民間セクターで当たり前の行為なのはわかるが、わたしはニューラリンクとCNPRCによる科学面での連携を発展させることが有益だと理解しているので、少し驚いている」と記し、「人材の引き抜きでは関係は構築されない」と指摘している。

「テレパシーが可能になる」

ニューラリンクが開発したハードウェアは驚嘆ものだ。脳波計やfMRI(機能的核磁気共鳴画像法)のように体の外に取り付ける非侵襲的な装置では、コンピューターを操作できるほどの解像度を脳全体で長期的に得ることは難しい。その一方、脳内の環境は電極に対して優しくない。科学者たちは過去数十年、硬い針状の電極を使ってシナプス間の交信に聞き耳を立ててきたが、そうした機器は塩分で劣化する。また、免疫反応も問題だ。脳内では、ぬめりのあるグリア細胞が保護機能を果たしており、この細胞に覆われた電極は時間がたつにつれて役に立たなくなる。さらに、脳は通常、心拍や呼吸に合わせて不規則に動いたり、脈動したりするため、埋め込まれた電極が移動し、目当ての位置からずれてしまう。

だがおそらく、いちばんの悪条件はほかにある。保存処理済みの脳標本を科学の授業で見たことがあるかもしれないが、あれと違って生体内の脳はゼリーのような質感をしている。それに対し、神経信号を検出するのに最も適した電極は柔軟性に欠け、硬いのだ。旧来の電極に関しては、脳が活発に動くせいで組織を傷つけ、狙った位置から外れてしまうことがわかっている。

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