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Friday, February 17, 2023

超電導量子コンピューター 日本の挑戦 - ITpro

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全8820文字

 理化学研究所(理研)は2023年3月末をめどに、初の国産ゲート型量子コンピューターのテストベッドを稼働する。量子コンピューターは計算素子である量子ビットの実現方法で分類され、「光方式」や「半導体方式」、「イオントラップ方式」などがある。理研が稼働予定のテストベッドは「超電導方式」だ。米IBMや米グーグルなども開発を進める超電導方式は、まだ実用的な性能を有してはいないが、現状で最も実機の開発が進んでいる方式だ。

日本の強みは部品

 超電導量子コンピューターの開発で日本はこれまで、米国や中国に後れを取ってきた。一方で産業技術総合研究所の新原理コンピューティング研究センターの川畑史郎副研究センター長は「部品部材レベルにまで目を向けると、日本は強い」と指摘する。

 IBMは2021年6月、東京大学と共同で同大内に量子コンピューターの研究開発拠点「量子コンピューター・ハードウェア・テストセンター」を開設した。これも日本企業への期待の表れだ。センター内の超電導量子コンピューターは部品の置き換えが可能で、IBMと東大は様々な企業と共同でハード面における性能向上に向けて部品の開発や研究を進めている。

 IBMは超電導量子コンピューターの実機を米国以外に日本やドイツなどに置くが、ハード開発研究用の実機を置くのは日本のみだ。量子コンピューターが実用的な性能を発揮するには、現状数十~数百の量子ビット数を100万ほどに増やす必要があるとされている。東京大学大学院の仙場浩一理学系研究科特任教授は「量子コンピューターには非常に高い技術レベルが求められる部品が多くあり、今後欠かせない部品の小型化や性能向上は日本の得意分野だ」と話すとともに「ものづくりのポテンシャルを生かせる100年に一度の好機で、優秀な企業にぜひとも加わってほしい」(同)と期待を込める。

マイクロ波で制御・観測

 超電導量子コンピューターは「コンピューター」と名前がつくものの、パソコンなど従来方式のコンピューターとは構造が大きく異なる。まずその基本構造と主要部品を紹介しよう。

 量子コンピューターの心臓部は「0」と「1」の情報を重ね合わせた形で保持できる量子ビットと、量子ビットに対してマイクロ波を照射したり読み出したりする「量子コンピューター制御装置」である。

 超電導方式の量子ビットは、周波数が数ギガヘルツのマイクロ波を照射すると「量子重ね合わせ」が発生したり、他の量子ビットとの間で「量子もつれ」が発生したりする。これら量子現象を起こすために用いるマイクロ波は「量子ビット制御用信号」と呼ぶ。

 演算の結果は、量子ビットに対して別のマイクロ波を当てることによって読み出す。このマイクロ波は「読み出し用信号」と呼ぶ。

 超電導方式の量子コンピューターの難しさは、量子ビットが非常にデリケートで、わずかなノイズが入るだけで意味ある計算結果が得られなくなってしまう点だ。量子ビットは絶対零度に近い温度環境で操作する必要があり、信号のやりとりの中でノイズを減らすための工夫が随所に求められる。

 超電導方式の量子コンピューターの構造を、より詳しく見ていこう。

図 超電導量子コンピューターの構造例

図 超電導量子コンピューターの構造例

希釈冷凍機内に多数の部品(写真:希釈冷凍機と超電導量子ビットチップ(理化学研究所))

[画像のクリックで拡大表示]

 ユーザーは従来方式のコンピューターを使って量子コンピューターを操作する。ユーザーの指示は制御装置が受け取る。制御装置は制御用信号や読み出し用信号を量子ビットに送り出し、演算結果を従来方式のコンピューターに戻す。制御装置の心臓部には現状、電子回路を自由にプログラミングできる半導体チップであるFPGAを使用している。

 量子ビットの制御や計算結果の読み出しのための信号は、制御装置内のDA(デジタルアナログ)コンバーターでアナログのマイクロ波に変換する。マイクロ波はアップコンバーターで周波数を上昇させ、フィルターなどを用いて量子ビット制御や読み出しに合わせて信号を調整する。

 信号を量子ビットが存在する希釈冷凍機内部、つまり絶対零度に近い10ミリケルビンほどの極低温環境に送る過程では、減衰器で振幅を減らす。減衰器を用いるのは、量子ビットに加わる熱雑音を極限まで抑えるためだ。

 超電導量子チップ上の計算結果を得るためには、量子ビットの読み出し信号を約10ミリケルビンの環境に置いたジョセフソンパラメトリックアンプ(JPA)で増幅する。JPAは、共振回路でコイルやコンデンサーなどの回路パラメーターを共振周波数の2倍の周波数で変調したときに起こる「パラメトリック増幅」という現象を利用して、高感度かつ低雑音で信号を増幅する。

 JPAの信号は約4ケルビンの温度帯に設置するHEMT(High Electron Mobility Transistor、高電子移動度トランジスタ)アンプで増幅し、室温の環境にある制御装置に送る。制御装置ではさらに低雑音アンプによる増幅、ダウンコンバーターによる周波数変換の後、AD(アナログデジタル)コンバーターでデジタル信号に変換し、FPGAを介して計算結果を従来方式のコンピューターに戻す。

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