ゲーム開発者向けカンファレンス「CEDEC2022」で「NFTやメタバースで注目されるWeb3分散型ゲームの未来」と題して、ゲーム業界におけるNFTやメタバースに関する講演を行いました。メタバースについては、各社によって解釈が大きく異なっており、未だ定義も曖昧で、社内外共に賛否ある非常にセンシティブなテーマでもあります。
Gartnerは、2026年までに、全ユーザーの25%がショッピング、仕事、教育、社交、娯楽としてメタバースで過ごすようになると予想していますが、メタバースの解釈のひとつとして、ドラえもんのどこでもドアのようにさまざま世界に繋がることによって生み出される相互作用としての捉え方があります。
今回は、リアル(フィジカル)とデジタル、さまざまな世界を繋ぐ架け橋としてのメタバースの使い方をテーマにお話をしたいと思います。
VRゴーグルで仮想空間へ入り込む体験
先日、山口大学工学部でWeb3サマースクール「メタバースとスマートコントラクト」という講義を行いました。写真は、MetaのWorkroomsを用いて自己紹介をしている様子です。VRゴーグルを装着すると、目の前に広がる360度の視覚情報はもちろん、同時に、センサー類が、自身の体を仮想空間に転送します。姿勢、顔の向き、指の形に至るまでが同期されることで、仮想空間の中で、他者への圧倒的なプレゼンス(存在感)を生み出します。他にも、オンライン勉強会などで何度かVRを使いましたが、オフライン開催のような雰囲気で参加者の反応も上々でした。
いわゆるメタバースと言われる世界は、このようにVR、ARなどを通じて没入感を表現するものも多く、VRChat、Mozilla Hubs、AltspaceVR、NeosVRなどをはじめ、さまざまなものがあります。また、VRゴーグルに加えてXintrackerやUni-motionなどセンサーにより、体全体の動きをより精緻に取り込む仕組みがある一方、カメラのみを使い、AIなど骨格推定を施すことで、手軽さに重きをおいた仕組みもあります。DeNA傘下のキャラライブアプリ「IRIAM」では、スマホのカメラだけを使い、表情などを同期する仕組みが使われていますが、手軽にリアル(フィジカル)とデジタルを接続する事例とも言えます。
メタバースの世界観については、Meta社の「The Metaverse and How We'll Build It Together--Connect2021」のなかで、マーク・ザッカーバーグ氏が目指す理想のメタバースが描かれています。
離れた友人と一緒にライブに参加する様子、クリエーターエコノミーに到るまで様々な使い方が提案されています。実用的な活用事例としては、NASAがMicrosoftのHoropotationを使って医師を宇宙空間に派遣したニュースが報じられていますが、このような事例は、SF的な凄みを感じさせます。
私の4歳の息子は、ニンジャゴーというアニメが大好きで、伝説のゲームプログラマー、ミルトン・ダイアーのつくったゲームの世界に飛び込むというストーリーがお気に入りです。そのなかで現実世界と仮想世界を行き来するようなストーリーが描かれていますが、これまでSFとして捉えられていた世界観が現実に近づきつつあると思います。
VRゴーグルで仮想空間へ入り込む体験
リアル(フィジカル)の世界からデジタルの世界の相互運用を考えたときに、困ることは双方のルールが異なっている点で、デジタルにおけるnon-fungible(非代替性)の表現は重要な要素となります。
スターウォーズで宇宙船の大軍を作ったり、ジュラシックパークで恐竜の群れを作るように、デジタル技術はコピーという手法によって、圧倒的に物量を作り出すことを得意としてきました。その一方で、クリエーターがつくった一点ものの作品のような、代替・交換不可能な表現をすることはこれまで難しいとされていました。デジタルに対して、代替・交換不可能な表現を与えるのが、前回「NFTで変わるデジタルアセット所有の未来--コロナ禍におけるDeNAスポーツ領域のデジタル戦略」でテーマとしたNFT(非代替性トークン)です。このような技術が必要とされる背景としては、IP(知的財産)の作り方が、企業が一方的に作り出す手法から、マインクラフトのように、誰もが自由に創作物を作り楽しむことができるようになったことも関係しています。
Open Brushなどを用いてVR空間の中でアート作品を描くクリエーターが活躍していますが、このような表現手法はメタバースや仮想世界での創作活動そのものです。日本人ではせきぐちあいみさんなどのNFTクリエーターが有名で、「Alternate dimension 幻想絢爛」など、VRで描かれた作品は美しく見る人を魅了するうえ、非代替性を注入することにより、作品はアーティストが作り出した一点ものとなります。OpenBrushには直接NFTと紐づけるような仕組みはないようですが、Adobe Photoshopでは、ツール内で描かれたイラストとクリエーターを結びつけ、証明する機能が作られています。
基本的な構造として、作品のデータをハッシュ化した上で、オーナーとの紐付けを分散台帳上に記録します。どのように情報を記録していくのかについては、各社様々ですが、共通化の動きもあります。
たとえば、EIPの中でも、アバターの洋服のように複数のアイテムを組み合わせて扱うための仕組みとしてComposableTokenという概念が作られています。加えてERC-3664といわれる転送、更新、変更、結合、そして進化など、複雑なユースケース組み合わせに対応した、デジタルアートワーク向けの規格も考案されているようです。
小麦、牛乳、バターからパンを作るように、メタバースの世界でも材料を組み合わせ作品が生み出されます。小麦を作った人にも報酬を分配する仕組みが整えば、職業観が生まれ、経済を生み出すこともできると言われています。メタバースを語る上で、「Ready Player One」という映画が引き合いに出されますが、そのなかで登場するコインのように、報酬と紐付けたFT(FungibleToken)や、アバターの服やアイテムとしてのNFT(Non FungibleToken)のように、ブロックチェーンが果たす役割は非常に大きいと思います。
とはいえ、DecentralandやThe Sandboxのように基盤としてブロックチェーンが使われているプロダクトがある一方、VRChatやマインクラフトなど、今後ブロックチェーンやNFTとの統合の予定はないとの立場を表明するプロダクトもあるなど、賛否両論ある現状があります。
オープンメタバースとクリエイターによる共創
複数のプラットフォームが作る仮想世界を障壁なく行き来することができるオープンメタバースという世界観があります。フォートナイトやUnreal Engineなどを手掛けるEpic Games社のCEOであるティム・スウィーニー氏は、一つの企業や組織にコントロールされることなく、相互運用によって、新しい可能性を広げることの重要性を語っています。
以前、「フォートナイト」のなかで、星野源さんが登場する参加型ライブの開催が話題になり、私も参加しました。フォートナイトではこれまでも、様々なプラットフォームを通じて遊べるということや、映画やスポーツチームなどいろいろなIPとのコラボがされてきました。さらには、フォートナイトクリエイティブというツールによって、自由にゲーム内の環境をつくることできます。このように誰もがクリエイターになるという世界観があります。
メタバースでの物づくりについてクリエイターが大きな位置を占めることは、予想されており、日本の次世代クリエーターを育成するプログラムの発表などがされています。将来はYoutuberなどと同様に、子供たちが憧れる職業になるかもしれません。
Metaのコンセプト動画のなかで、Vishal Shah氏は相互運用がないメタバースは、現実世界でスタジアムで買ったユニフォームがスタジアム以外で着用できないようなものだと語っていますが、将来、横浜スタジアムがメタバースになることがあれば、自宅や会社などでもベイスターズのユニフォームを着れるようにして欲しいと切に願います。
OpenXRなどの規格をはじめ、複数のプラットフォームにおける相互運用は連携が必要でもあるため、メタバースの相互運用性向上に向けた新団体「Metaverse Standards Forum (MSF) 」の設立が注目されており、多くの企業が参加しています。メタバースを構成する要素が何かという議論は多々ありますが、メタバース投資家のマシュー・ボール氏をはじめ、相互運用や、クリエーターの経済活動について触れている有識者も多く、これらがキーワードのひとつとなる可能性は高いのではないかと思います。
リアル(フィジカル)とデジタルが融合する世界
相互運用は、デジタルの間だけではなく、リアルな空間との接続をも可能にします。リアル(フィジカル)とデジタルが重なり合い、両方の世界の長所を組み合わせた混合体験を生み出すことを、フィジタル(フィジカル+デジタル)という造語で表現することがあります。
元々リアル(フィジカル)との紐付けは、サプライチェーンにおけるトレーサビリティ担保のため、QRコードやRFIDなど台帳と紐付けする事例がつくられてきたことや、元々、ビットコインには、ネットワークからの攻撃を防ぐ目的のために、紙に印刷するペーパーウォレットというアイデアもあるなど、活用自体はまったく目新しいものではありません。
ダミアンハーストが仕掛けた、購入者にNFTを取るか物理作品を取るかの選択を迫るような仕掛けや、米国のスタートアップRTFKTはNFTアートとしてのデジタルスニーカーを販売するとともに、オーナーに対してリアルのスニーカーを配布したり、商用化できる3Dファイルを配布する施策、また、3Dプリンターで出力することで、デジタルを現実に持ち込む取り組みなど、相互運用のために様々な取り組みがあります。
RTFKTはSnapchatというアプリを使って手軽にバーチャルフィッティングの体験が可能ですので、ぜひ試してみてください。これらのスニーカーは、先に紹介したEpic Games社のUnreal Engineという開発エンジンで作られているそうで、ゲームやメタバースでの活用が期待されている点も特徴的です。
私は、マーベルやスターウォーズが好きなので、VeVeというアプリケーションがお気に入りです。購入したNFTのフィギュアをARを通じて自分の部屋に飾ることや、購入したアメコミを自分の部屋に広げて読むことができます。
上記に紹介した事例は、デジタルをリアル(フィジカル)に持ち込むアイデアですが、逆に、リアル(フィジカル)をデジタルに取り込む仕組みとして期待されるのは、LiDARなどのセンサーを活用した取り組みです。ポケモンGOで知られる米NianticがLiDARのアプリケーションScaniverseを買収したニュースが話題になりましたけど、現実空間をどう仮想空間に活かすかというのは非常に魅力的なテーマです。Web3サマースクールでも、iPhone13Proに掲載されているLiDARを用いて、現実空間を取り込む実験を行いました。このような観点は、国土交通省のPLATEAU(プラトー)の取り組みのように、ミラーワールドやデジタルツインなどによって活用の幅が広がります。
先月、家族でSmall Worlds Tokyoというテーマパークを訪れました。この施設では、入場するときに全身をスキャンし、3Dプリントを行うことで、ミニチュア世界の住民になる体験を提供していますが、このように3Dスキャンや、3Dプリンターの活用によって、新しいエンターテイメントが生まれる可能性もあります。
CEDECのセッションでは、DeNAで開発中の事例としてドローンに立方体のマーカーを設置し、360度方向からデジタルコンテンツ(NFT)を配布する仕組みを紹介しました。デジタルに対して、物理的な制約を設けることで、イベント会場などで自分の角度や位置でしか手に入らないNFTを表現することが目的です。これらは受け取る過程によって様々な意味付けを作り出して、プロセスエコノミーという概念にも繋がります。
また、GPSやVPSを用いた仮想的なイベント会場内におけるアート作品の展示など、NFTを活用するユースケースも作っていますが、今後は、5Gなどの通信技術とも連動を行いながら、地方創生やスマートシティといった分野において、活用するニーズは増えていくのではないかと思います。
DeNAが開発中のxRとNFTを組み合わせた事例(左上:ドローンからゲームアイテムや投票券として使えるボール(NFT)を配布 右上 : バーチャルコーヒーショップでドリンクチケットNFTの配布 右下: NFTアートをオフィスの空間に飾る)
Conclusion
VRゴーグルがタンスの肥やしになっているという話も聞きますが、私は、よく自宅でVRゴーグルを使っています。VRChatに出かける事もありますが、利用頻度が一番高いのは、Netflixアプリでの海外ドラマ鑑賞です。ソファでVRゴーグルをかけていると寝ていると勘違いしているのか、息子がちょっかいをかけてくることもなく、狭いマンションの中に、広々とした安息の場所が生まれます。
またBigscreenというアプリケーションは、Prime VideoのWatch Partyのように、VRの世界において、友人同士で映画鑑賞ができます。学生時代よく、放課後集まって、アニメの再放送をみていましたが、同じように、仮想空間でワイワイ友達と映画をみることができるのはメタバースならではの活用方法でしょう。
「オアシスは決して一人でプレイするゲームではない」と劇中で語られていますが、友達みんなで、VRゴーグルをつけて「 Ready Player One 」を鑑賞しながら、メタバースについて語り合うのも面白いかもしれません。
現時点で、メタバースについて様々な意見がありますが、まずは好きな世界観に近いものを選んで、生活に取り入れてみる事をお勧めします。順番としては、先に技術ありきで考えるのではなく、自分の体験によって感じた不満や課題を補うための手段として、その先に、技術があると考える方が自然なのではないかと思います。
緒方文俊
株式会社ディー・エヌ・エー 技術統括部技術開発室
2012年から株式会社ディー・エヌ・エーでMobageのシステム開発、リアルタイムHTML5ゲームタイトル開発、Cocos2d-xやUnityによる新規ゲームタイトル開発、ゲーム実況動画配信アプリの開発などサーバーサイドからクライアントまで幅広くエンジニアとして経験。2017年、フィンテック関連の事業開発をきっかけにブロックチェーンによるシステム開発をスタート。現在は、同社の技術開発室で、ブロックチェーン技術に関する研究開発、個人として外部顧問などの活動を行いながら、エンジニア目線での、日本におけるWeb3やブロックチェーン技術の普及・促進活動を行っている。「エンジニアがみるブロックチェーンの分散化と自動化の未来」を定期的に執筆中。
からの記事と詳細 ( リアルとデジタル、さまざまな世界を繋ぐメタバース--そこでのブロックチェーン技術の役割 - CNET Japan )
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