第1回目では、大企業とベンチャーのマネジメントの違いと、組織マネジメントのフレームワーク構築、目標設定方法についてご説明しました。そして、第2回目では、新規事業の成長の芽が生まれ、野心的な目標を設定した後に、実際にどのように目標を達成していくのかを解説しました。
最終回となる今回は、新規事業が順調に成長し、どんな事業にも必ず訪れる“踊り場”に来た時の乗り切り方について解説したいと思います。
人員が“急激に”増えるベンチャー企業
新規事業が順調に拡大すれば、人員を増やしにかかるでしょう。大企業であれば社内から異動で新しい人が加入するかもしれません。それに加え、その新規事業部門配属の採用も増やしていくことでしょう。
生まれたてのビジネスは、その成長“角度”が非常に高いものになります。売上100万円の事業が売上500万円になれば、成長“率”5倍です。初期の小さなフェーズであればあるほど、成長を始めた時の成長“率”は高くなります。
高い成長率で推移することにともない、人員も2人から10人(5倍)に増えた、オフィスが5倍広い場所になった、顧客数が5倍になった、などあらゆる変化を顕著に感じるようになります。これが、「ベンチャーは成長を味わえる」という通説の正体です。ビジネスサイズとしては小さいがゆえに、一度成長を始めた時の成長“率”は非常に高くなる、それにともない目に見えるあらゆるものが変化する、ということが起こります。
目に見えるもっとも大きな変化は「人が増える」というものです。上記のように社員数2人が10人になったというのは、極端な話、2000人が1万人になったのと成長率でいうと同じです。もう、全く別の集団になったといっても過言ではないのではないでしょうか。人員は”急激に“すごい角度で増える。これがベンチャーの特徴です。
組織拡大に耐えられず踊り場を迎え、そして後退
急激に人が増えると、人と人との価値観がぶつかり合います。
■これまでの立場の違い
- これまでその事業を立ち上げてきた人 VS 外から来た人
- 大企業出身 VS ベンチャー出身
- 若手 VS ベテラン
■価値観の違い
- 自由を重んじる派 VS 規律を重んじる派
- スピード重視派 VS 慎重派
- 対面派 VS チャット派
あらゆる異質の立場の人が混ざり合い、それに伴い異なる価値観がぶつかります。これを放置しておくと、内部での対立が絶えない組織になります。
対立が激しくなると、決めるべきことが一向に決まらない、誰かの仕事を誰かが邪魔する、チームの雰囲気が重い……顧客によいサービスを提供したいという純粋な気持ちにメンバーが向き合えなくなります。「せっかく社会に意味ある新規事業に関わることができるのに」そんな風に目を輝かせていた人たちの目がどんどん曇っていきます。
そして、肝心の業績もそのような対立の中でいずれ踊り場に来ます。最悪の場合、そうこうしているうちに市場の変化や競合の打ち手に対応できず、踊り場どころか下降曲線に入ります。せっかく入った人たちも「これはまずいな……」と辞めていきます。残ったのは、多額を使った採用費による赤字と、「この組織は成功できないのではないか」というなんとも言えない敗北感です。
この組織はもう1度拡大を試みても、もう1度崩壊します。それ以前に、1度崩壊した疲弊感から立ち直れずに、もう1度拡大しようとする気力も生まれないと思います。さらに、それ以前に急拡大のチャンスはそう何度も訪れません。一度来たチャンスを逃した新規事業が衰退していく例は本当にたくさん見た気がします。
組織拡大に耐えるための「2つの魔法」
急激な成長を迎える新規事業で「今人を増やすと組織が乱れるのでゆっくり増やそう」というのは、二流のマネージャーです。そんなマネージャーでは千載一遇のチャンスを逃してしまい、伸びるものも伸びないでしょう。「今は千載一遇のチャンス、一気に増員しよう!今人を増やすと組織は乱れるだろうから増員をしながらXXをやって乗り切ろう」と考え、増員に踏み切るマネージャーこそが勝利を納めます。
ではこのXXは何でしょうか?価値観の相違を乗り越え、拡大し続ける組織を崩壊させないように保つための仕掛けです。それは「ルール」と「相互理解」です。
【1】ルール
ルールは、その名の通り、組織で守るべきルールのことを指します。これは「能力関係なく誰でもできること」が条件です。能力が必要なルールだと守ることができないことがあります。そして、一度ルールが破られれば、組織全体が「なんだルールは破っていいのか」となり、ルールによるマネジメントが効かない組織になります。
同じルールをみんなで守ることは、価値観の違いこそあれ「同じことを守った」という共通の成功体験をチームにもたらします。この共通の成功体験が価値観を超えたチームの繋がりを生むのです。
【2】相互理解
相互理解は、その名の通り、メンバー同士の相互理解を促す仕掛けです。お互いの自己紹介から始まり、たとえばこれまでの人生や今後の夢などをお互いに話合えば、お互いがどういう人なのかがわかります。
このような相互理解は、チームメンバー同士の価値観を互いに理解し、円滑に仕事がすすむチーム作りに役立ちます。相互理解の方法自体は様々な書籍やセミナーで各所で紹介されており、そのバリエーションもさまざまなので本稿では割愛します。
ルールも相互理解も、大事なのは「いつ強化するか」です。
どんな組織においても「ルール」は多かれ少なかれ必要性はあるのでしょう。「相互理解」はやった方が良いことではあるのでしょう。ただ、第1回目、第2回目でも述べているように、新規事業=ベンチャーは「リソースがない」のです。やった方が良いと思うことは全てやる、では事業が生き残り、成長するということは実現できません。
ルールも相互理解も、その強化はいつやるのか?それが重要です。それは「急拡大時」にやるのです。事業の立ち上げを少人数でやっている頃には必要ありません。急拡大し、価値観のぶつかり合いが予測されるそのタイミングでやる、と決めることは重要です。
ルールと相互理解を強化することで、急拡大は乗り切るのです。乗り切れば、組織拡大に伴い事業拡大が行われ、人も定着し、さらにそのビジネスは伸びていくでしょう。
最後に
新規事業を生む→大きく成長させる→踊り場を乗り切るという流れで、3回に渡り連載で解説をしました。新しい事業のマネジメントというのは、一般的なマネジメント論とは異なる切り口・手法で説明されるべきものだと思います。
単に現在の組織を事故なく維持する、現在の人員の行動を管理する、それだけがマネジメントではありません。新しく生まれた事業の種を成長させ、成功に導くためのマネジメントが、新規事業担当者には求められているのです。
長村禎庸
株式会社EVeM 代表取締役 兼 執行役員CEO
2006年大阪大学卒、株式会社リクルート入社。
2009年株式会社ディー・エヌ・エーに入社。広告事業部長、(株)AMoAd取締役、採用マネージャー、経営企画マネージャー、PMIプロジェクトリーダー、(株)ペロリ社長室長兼人事部長など、さまざまなチームのマネージャーを担当。
2017年株式会社ハウテレビジョンに入社。取締役COOとして、管理部門以外のすべての部門を統括。停滞する業績を急成長させ、2019年同社を東証マザーズ上場に導く。
2020年8月、ベンチャーマネージャーを育成する株式会社EVeMを設立。創業1年にしてベンチャー中心に100社以上の経営者・マネージャーにオンライン完結型のマネジメントトレーニングを実施。 2020年11月『急成長を導くマネージャーの型 地位・権力が通用しない時代の“イーブン”なマネジメント』として技術評論社から発売。 組織を強くしたい人、マネジメントに悩んでいる人に役立つ一冊として、Amazonマネジメント・人材管理ランキングにて新着1位を獲得。
からの記事と詳細 ( ベンチャー成長期の社員急増で起きるさまざまな「対立」--組織崩壊を防ぐ2つの魔法 - CNET Japan )
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