接続可能性について県が調査開始
福岡県は2021年度の6月補正予算案として、「地域活性化等」の項目で新たに「地下鉄福岡空港駅とJR福北ゆたか線の接続可能性を調査」の費用を計上した。予算額は3,012万8,000円。これを受けて6月23日、「福岡市地下鉄福岡空港線とJR福北ゆたか線の接続に関する基礎調査業務委託」に係る公募型プロポーザル方式入札の実施が発表された。
同調査業務は、福岡市地下鉄福岡空港線とJR福北ゆたか線を接続した場合に想定される複数のルート案や採算性、また具体的にどのような沿線地域活性化や経済波及効果が生じるかといったことを検討し、接続実現可能性について今後幅広く議論するための基礎的な調査を行うもの。また、接続による時間短縮や利便性の向上についての検討も行うとしている。なお、同調査業務の委託特記仕様書には、「既存線との接続方式や導入空間を勘案し、想定されるルート案を抽出する」「実現可能性を勘案し抽出したルート案の中から6案の検討を行う」とあるが、6案のルート案の具体的なイメージについては、県のほうでは現時点で想定していない。同調査業務を所管する福岡県交通政策課鉄道係によると、「今回の調査では、端点として福岡空港駅および長者原駅を設定しているが、その間のルート案や分岐地点などについては制限を設けていない」という。
なお、同公募の参加表明書および技術提案書の提出期限は、すでに終了している。「いくつかの応募はあるが、応募件数については公表できない。今後、業者ヒアリングおよび提案への評価を経て、8月中には調査業務委託の事業者を決定していく予定」(県交通政策課鉄道係)。
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今を遡ること約5年前から、筑豊エリアおよび糟屋エリアを中心に顕在化してきた両駅間の接続に関する要望活動だが、多岐にわたるさまざまな課題が山積していることから、これまでは“絵空事”や“夢物語”と見られる向きも多かった。それが今回、県が予算を付けて調査に乗り出したことで、ようやく現実味を帯びてきたといえるだろう。
今後、県の調査業務において、実現可能性の検討などが行われていくことになるが、本稿ではそれに先駆けて、独自の論を展開してみたい。まずは、県の調査に至るまでの背景や、両駅接続に関して押さえておくべき事項などから触れていこう。
接続が検討される2つの鉄道路線
福岡市地下鉄空港線との接続が取り沙汰されているJR福北ゆたか線は、黒崎駅(北九州市八幡西区)を起点とし、筑豊エリアを経由して博多駅(福岡市博多区)までの約66.6kmを結ぶJR九州の路線である。なお、「福北ゆたか線」という名前は、「福」岡市と「北」九州市と筑「豊」エリアを結ぶことから名付けられた愛称であり、正式な路線名としては鹿児島本線(博多駅~吉塚駅間)、篠栗線(吉塚駅~桂川駅間)、筑豊本線(桂川駅~折尾駅)、鹿児島本線(折尾駅~黒崎駅間)の3路線・4区間にまたがっている。直方駅(直方市)を境に運行系統が分かれており、運行する列車は主に普通列車と快速列車の2種類だが、直方駅~博多駅間では朝と夜に1本ずつの特急列車も走っている。
JR九州の19年度の交通・営業データによると、線区ごとの平均通過人員は、篠栗線・吉塚駅~篠栗駅間が3万3,371人/日、篠栗線・篠栗駅~桂川駅間が1万4,484人/日、筑豊本線・折尾駅~桂川駅間が8,299人/日となっている。また、同データの駅別乗車人員では、鹿児島本線の4駅(折尾、黒崎、吉塚、博多)を除けば最も利用客数が多いのが篠栗駅(篠栗線)の4,974人/日で、以下、新飯塚駅(筑豊本線)4,494人/日、柚須駅(篠栗線)4,222人/日、長者原駅(篠栗線)4,069人/日、直方駅(筑豊本線)3,353人/日と続く。福岡と北九州という2つの政令市と、県内4位の人口を擁する飯塚市を含めた筑豊エリアとを結ぶ路線だけあって、沿線エリアの利用客は相応にいる模様だ。
一方の福岡市地下鉄空港線は、姪浜駅(西区)を起点に福岡空港駅(博多区)までの総延長13.1kmを結ぶ、福岡市交通局が運営する地下鉄路線である。姪浜駅以西のJR筑肥線とは相互直通運転を行っており、1時間あたり4本程度の本数で直通列車も運行している。姪浜や西新、天神、中洲、博多、福岡空港などの福岡市における都心や副都心、交通拠点などを結ぶほか、沿線は居住エリアとしての人気も非常に高く、通勤・通学などの利用客も多い。福岡市内における大動脈の1つといって差し支えないだろう。
こうして見る限り、仮にJR福北ゆたか線長者原駅と福岡市地下鉄福岡空港線との接続が実現した場合、筑豊エリアおよび糟屋エリアの住民にとっての恩恵は、単に福岡空港へのアクセスが便利になるというだけではない。福岡市中心部の天神のほか、その先の市内主要エリア、糸島市などにも直接つながることになるのだ。また、今現在はインバウンド需要が消滅し、コロナ禍の影響で空港利用客が激減しているものの、国内外からの人流を筑豊エリアにまで直接引き込みたい狙いもあるだろう。
【坂田 憲治】
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