メルセデス・ベンツがヴァンケル・ロータリーエンジンを搭載したスーパーカーを発表してから2020年でちょうど50周年である。無数の速度記録を樹立したそのC111-Ⅱを私たちが今も忘れられないのはなぜだろう?
C111のボディカラーはオレンジのように見えるが、このカラーはドイツ語で"weissherbst"と呼ばれるもので、直訳すれば「白い秋」となる(訳註:ヴァイスヘルブストは白ワインから来ているのだと思われるが、英国人はあえて無視しているのか言及していない)。
グラスファイバー製ボディワークはもちろん、その中身も"ブロンズ"でもない。メルセデス・ベンツのスーパースポーツカー(とは彼らの言い分で私のではない)は、1970年3月のジュネーヴ・ショーに突如姿を現した。2.4リッター クワッドローター・ヴァンケルエンジンを積んだこの車は、最高速300km/h(188mph)と0-62mph加速4.8秒を主張していた。後にその最高速はずいぶんと控えめだったことが判明したが、いくつもの速度記録を打ち立てたにもかかわらず、その後、扱いにくいエンジンはメルセデス自身のミュージアムにしまい込まれてしまったのである。
いうまでもなく、C111はその前から存在していた。第1世代のC111は、1969年には技術研究用のプロトタイプ以上のものに位置付けられていたが、ジュネーヴ・ショーでのお披露目に当たって、デザイン部門を率いるブルーノ・サッコと同僚のヨゼフ・ガリッツェンドルファーは、機能性にわずかなスタイルのスパイスを振りかけたのである。その後風洞に持ち込んだ結果、空気抵抗は8% 低減され、Cd=0.325を達成したという。
続いてはエンジニアたちの出番だった。メルセデス・ベンツがモータースポーツ活動から撤退した後、乗用車開発部門のボスに就任したルドルフ・ウーレンハウトは、いくつかの実用的な改善を要求した。実用的なトランクルームに加えて、ルーフにスキーを積めるようにすることと、ウーレンハウト自らの「バターテスト」をパスすることである。それは現実的な速度で走っても、"ミドシップされたエンジンからの熱でトランクに積んだバターのパックが溶けない"というもので、C111は無事にそのテストに合格した。
C111はすべてコンピューター上で設計された世界初の自動車だった。エンジニアたちはESEM(elasto static element method)という、実際に車を製作することなく動的荷重の計算を可能にするデジタル技術を活用し、およそ4ヵ月開発期間を短縮することができたという。メルセデスはこれをたいへん誇らしく思っていたらしく、「Das Auto,das aus dem Computer kam」(コンピューターから生まれた車)という題名をつけたドキュメンタリー映画を制作し、発表会で披露したほどだ。
矢のようなボディの下のサスペンションは、アンチダイブとアンチスクォット・ジオメトリーを特徴としており、フロントのサスペンション形式はほどなくメルセデス全モデルの定番となり、またリアサスペンションの形式は現在のマルチリンクサスペンションに受け継がれている。メルセデス・ベンツがそのパワーを持て余すスポーツカーを作るとは誰も思わないだろう。ジュネーヴ・ショーで観衆の注目を集めるいっぽうで、そこからほど近いフランス側のモントゥー・サーキットでC111-Ⅱの第1号車は、プレス関係者の試乗車として提供された。そこでレーシングドライバーからジャーナリストに転身したポール・フレールがどのように評価したかは後述する。
裕福なスポーツカーファンは大いに興味をそそられた。その後の数カ月間に金額が書き込まれていない小切手がシュトゥットガルトに届き始めたものの、メルセデス・ベンツはあくまで研究開発用プロトタイプであり、市販車ではないことを明言しなければならなかった。実際、1963年の時点でヴァンケル・エンジンをパゴダルーフのSLの下に位置する「コンパクトで手頃な価格のスポーツカー」に搭載するという企画が検討されており、このプランは1968年にはラリーにも適した「コンパクトなスポーティカー」で若いユーザー層を狙うという計画に進化していた。そして登場したC111-Ⅱはたちまち、あの300SLガルウィングの後継モデルを待ち望んでいたすべての人々の熱い注目を集めたのである。
合計で14台製作されたうちの3台のプロトタイプは途中で解体され、1台はテスト中にクラッシュ、残る10台は現在に至るまで生き延びている。しかしながら、あの当時導入されたエミッション規制と1973年の石油危機のあおりを受けて、C111は手の届かない場所にしまい込まれてしまったのである。
1970年にはどう評価された・・・?後編へ続く
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