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Friday, December 4, 2020

中国の研究チームが達成した「量子超越性」が意味すること - WIRED.jp

グーグルは昨年10月、スーパーコンピューターでも10,000年かかるとされる計算を、プロトタイプの量子コンピューターを使って数分で終えたことで世界から絶賛された。これは「量子超越性」、つまり量子コンピューターが従来型コンピューターの限界を超えた計算能力をもつことが実証された瞬間であった。

これに続いて中国の量子研究グループが12月3日(米国時間)、独自の量子超越性を達成したことを『サイエンス』誌で発表したのである。「九章(ヂォウジャン)」と呼ばれる量子コンピューターのプロトタイプを利用し、世界第3位の強力なスーパーコンピューターでも20億年以上かかる計算を数分で終えたというのだ。

ただし、このふたつのシステムの仕組みは異なる。グーグルは超低温、超電導の金属によって量子回路を構築している。これに対して安徽省合肥市にある中国科学技術大学のチームは、光の粒子である光子を操作することによって量子超越性を実現した。

量子コンピューターの強み

どの量子コンピューターも、まだ実用化の段階ではない。しかし、ふたつの根本的に異なるテクノロジーを用いてスーパーコンピューターの計算能力を超える可能性が実証されたことは、この黎明期の業界に希望を与え、投資の後押しになることだろう。

グーグルと、その競合であるIBM、マイクロソフト、アマゾン、インテル、そして数社のスタートアップは、各社とも量子コンピューターのハードウェア開発に大規模な投資を進めている。なかでもグーグルとIBMは、量子コンピューターの最新のプロトタイプをインターネット経由で利用可能にしている。また、マイクロソフトとアマゾンのクラウドプラットフォームは、それぞれハネウェルのような他社の多数の量子ハードウェアをホスティングしている。

量子コンピューターの潜在的な能力は、量子ビットと呼ばれる単位から生まれる。従来型コンピューターのビットと同様に「0」と「1」を用いてデータを表すが、量子ビットでは量子力学的な原理によって、「0」と「1」の両方の可能性をもつ「重ね合わせ」と呼ばれる独特な状態が存在する。

このため十分な数の量子ビットがあれば、従来型コンピューターでは不可能なほどの“早道”で計算できるわけだ。また、連携して動作する量子ビットの数が多いほど、このメリットは大きくなる。

スパコンで20億年以上の計算を3分強で

エンジニアはまだ十分な数の量子ビットを確実に連携させることができないので、量子コンピューターが世界を制するには至っていない。量子コンピューターの基盤となる量子力学的な効果は非常にデリケートである。こうしたなかグーグルや中国の研究グループは、比較的多くの量子ビットを搭載できたことから、量子超越性の実験を実施することができたのだ。

グーグルの実験は、54個の量子ビットを搭載した「Sycamore(シカモア)」と呼ばれる超電導チップを、絶対零度をわずかに超える温度まで冷却して進められた。量子ビットのひとつは破損したが、慎重に選ばれた統計学の問題の計算では、残りの53個の量子ビットだけでも従来型コンピューターの能力を上回っている。量子コンピューターが有意な計算を実行するために必要な量子ビットの数は不明である。専門家の推定によると、数百個から数百万個の間だという。

中国のチームもまた統計学的なテストを利用して、量子超越性の達成を主張している。だが、中国のチームらが用いた量子データは、実験台に配置された光回路を鏡に導かれて通過する光子の形態をとっている。プロセスの最後に読み取られる光子が量子ビットに相当し、これによって計算の結果がわかる仕組みだ。

研究者らは、 量子コンピューター「九章」を用いて最大76個もの光子を測定したと報告している。ただし、平均をとるとそれより少ない43個だった。

中国の研究チームは、世界で3番目に速い中国のスーパーコンピューター「神威・太湖之光」で量子システムの計算をシミュレーションするコードを書いたが、その結果は「九章」にはるかに及ばなかった。研究者たちは、 「九章」がたった3分強でこなした計算をスーパーコンピューターが実行すると、20億年以上かかるだろうと算出している。

複数の実現可能性を示した結果

今回の実験を主導したのは、物理学者の潘建偉(パン・ジャンウェイ)が率いる大規模な研究チームだ。彼らは量子技術の強化を目指す中国政府の戦略の恩恵を受けており、記録的な距離にわたって量子暗号化を実証するなどの実績を上げている。量子暗号衛星「墨子」を利用して、中国とオーストリア間のヴィデオ通話の暗号化に成功したのだ。量子力学に基づいた暗号化は理論的には破ることができない(実際にはそれでも突破される可能性はある)。

中国の「九章」とグーグルの「Sycamore」には、ひとつ違いがある。光子を使ったプロトタイプの場合、再プログラムして別の計算を実行することは容易ではないのだ。というのも、設定が光回路にハードコーディングされているからである。

とはいえ「九章」が出した成果は、量子コンピューティングの実現に複数の実現可能な道筋があることを気づかせてくれた点で注目に値する──。そう指摘するのは、トロントの量子コンピューティングスタートアップXanaduの創業者兼最高経営責任者(CEO)で、光量子コンピューティングにも携わるクリスチャン・ウィードブルックである。「これは光量子コンピューティングにおけるマイルストーンですが、ほかの方法に取り組む人々にとってもいいニュースなのです」

いくつかの異なる形式の量子ハードウェアが産学両分野で開発されているが、グーグルとIBMによる多額の投資もあって、超電導回路を用いた量子ビットが頭ひとつ抜けている。業界大手のハネウェルやIonQなどのスタートアップは、イオントラップと呼ばれる電場を浮遊する個々の原子を用いた量子ビットからなる量子コンピューターを提供している。これらの量子コンピューターは、アマゾンやマイクロソフトのクラウドサーヴィスを通して利用できる。

それぞれの方式の利点

ウィードブルックが率いるXanaduは、最初のプロトタイプを9月に早期利用者向けにオンラインで公開した。彼は自分たちのチームが、中国の「九章」より柔軟なデヴァイスをつくれるのだという。そして光量子コンピューターは、すぐに超伝導チップと肩を並べられると彼は考えている。多くの通信ネットワークで使われているものと同じ部品を使えるメリットがあるからだ。

光量子コンピューティングとイオントラップを推進する研究者たちは、ともに自分たちの技術がIBMやグーグルの超電導チップより簡単に大規模な運用ができるはずだと主張する。超低温の冷蔵庫の中でデヴァイスを構築する必要がないからだ。

とはいえ、最初に実用化されるのはどの形態の量子コンピューティングなのか、それは誰にもわからない。「どの手法にもメリットとデメリットがあるのです」と、ウィードブルックは言う。

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