写真が撮りたくてウズウズしてる人は、ゲームをしてみるのが手かも。
みなさん、SNSにポストする写真ってどんな内容です? たとえば旅行先の風景、動物の意外な動き、散歩の途中に見かけた変なモノ...そんな、日常と違う一瞬や視点を切り撮った1枚はついシェアしたくなりますよね。(いやもちろん、普通のごはんを淡々とポストしたりもしますけれども)
ここ数年、タイムラインに流れてくるそんな写真の中に、ゲームのスクリーンショットが交じるようになってきました。その画像は、たとえばスーパープレイを決めた瞬間、馬が地面にめり込んだバグの現場、雄大な自然の風景...そんな一瞬や視点を切り撮ったものです。とくに最近のゲームは映像もすごくて、サムネールで見ただけだと写真と区別がつかないときもあったりね。
あれ? ってことは、これってほぼ写真なんじゃない? ゲームの仮想空間という非日常を旅して、そこで写真を撮るってことじゃない? 実際、最近はスクリーンショットを撮るための「フォトモード」なる機能が搭載されているゲームが増えているそうです。
仮想空間の写真を撮るのってどんな感じなんでしょう。その撮影は現実のカメラ体験とどう違うんでしょうか? カメラとゲームの両方で写真を嗜んでいるライター・高橋雄希さんに、フォトモードについて訊いてみました。
高橋雄希 :都内で兼業ゲームライターをやっています。2歳の頃に父がファミコンを買ってきてしまったことが私の人生を決定づけてしまったのかもしれません。以来、ゲームをやらない日はないという程の趣味となりました。
一眼カメラは取材に使えること、今回のテーマであるフォトモードをきっかけとしたことなどが重なり、しっかりしたカメラを持つように。現実では狙って「映える」絵を撮ることはあまりしませんが、一緒に旅行へ行った友人などが後で見返した時に喜ばれるような写真とは何だろうか……といった撮り方をしていきたいなと考えています。
「ゲーム内で写真を撮る」は、20年以上前からあった
──では早速フォトモードについて…といきたいのですが、その前に高橋さんが今お使いのカメラを教えていただけますか?
高橋さん:Olympusの「OM-D E-M10 Mark II」を使ってます。カメラに興味はあったものの、いきなりフルサイズ一眼をガッツリ始めるのは…と思っていたので、コンパクトでもちゃんと撮れるこのモデルを選びました。取材撮影でも活用しています。
──なるほどなるほど。では改めてなのですが、そもそもフォトモードはいつ頃から流行り始めたのでしょうか?
高橋さん:僕も厳密にはわからないのですが、肌感だと2017年から2018年にかけてでしょうか。機能としての「フォトモード」はもっと以前からありますが、流行り始めたのはそのあたりかなと。大作タイトルはフォトモード完備が当たり前になってきたのも、その時期だったように記憶しています。
──2017年には『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド』が、2018年には『Marvel's Spider-Man』が発売されていますね。どちらもSNSでよくゲームのスクショを見ました。
高橋さん:PCゲームであればもっと前からあったと思いますが、話題性という意味ではそのあたりですね。
ゲーム画面を撮影するという文脈だと、古くはMMOなどのネットゲームで皆が集まったところを記念撮影的にスクリーンショットで撮るなんて文化がありましたし、初代プレイステーションの『メタルギアソリッド』(1998年)ではスパイらしくカメラが装備品にあって、ゲーム内で撮った写真がメモリーカード保存されていました。あれって、まさに仮想世界のカメラですよね。フォトモードという言葉こそないものの、かなり時代を先取りしていたと思います。
──フォトモードとして確立したのは近年ですけど、ゲームの中で写真を撮るという文化は散発的にあったのですね。
現実のカメラ体験がフォトモードに繋がる
高橋さん:僕がフォトモードに興味を持った理由は、現実のカメラを購入してからなんです。カメラって専門用語が多いじゃないですか。なので、とりあえずニコンのサイトにある用語解説を読んで「F値」だとか「色温度」だとかの意味を勉強しました。すると、こうした知識を覚えればそれらしい写真が撮れるんだということが物理的にわかって、納得できたんですよ。
──ボケさせたければF値の明るいレンズを、一瞬を切り取りたければシャッタースピードを上げるなどですね。
高橋さん:ちょうどその頃にフォトモードが出てきたんですけど、あれって「焦点距離」や「F値」や「色温度」といった設定項目がいっぱい書いてあるじゃないですか(ゲームによってはティルト、グロー、被写界深度など言い方が違う場合もある)。ゲームは好きだけどカメラには興味がないゲーマーにとっては、どこをどうすれば良いのかわからないと思うんです。
でも、ちょうど僕がカメラについて勉強してたタイミングでフォトモードに出会ったので、現実のカメラの知識がすぐ応用できたんです。ボケ具合を変えるためにはF値を変えればいいとか、レースゲームでシャッタースピードを変えるとクルマがブレて写るとか。逆説的ですけど、リアルのカメラに興味を持っていたから、フォトモードにも興味を持ったという流れです。
──フォトモードはカメラのシミュレーションな要素がありますものね。現実のカメラについて勉強していたから、設定項目がたくさん並ぶフォトモードへの抵抗感もあまりなかったと。
高橋さん:そうです。現実のカメラを知ることで原理がわかった感じです。三分割法という構図の基礎も、フォトモードに応用するだけで随分と雰囲気が変わるので、そこは現実のカメラもゲームのカメラも同じなんだなと思いました。
狙った映えを作れるのが魅力
──そうした理論の部分は、現実のカメラ体験とフォトモードの共通する点かと思います。逆に、相違する点としてはどんなものがありますか?
高橋さん:カメラ位置の自由さは、フォトモードならではだと思います。人間では届かない高い位置からの撮影や、極端なアングルなどはゲームならではかなと。あと、ゲームによってはフォトモード中にキャラクターの表情を変更できたり、時間帯を変更(昼と夜など)できたりします。
──『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド』ではリンク(プレイヤーキャラクター)のポーズも変更できましたね。
高橋さん:そうですね。そうした要素を使えば、現実のカメラでは撮れない写真が撮れると思います。
『Ghost of Tsushima』だと、綺麗だなと思ったらプレステのShareボタンを押せば簡単にSNSにシェアできますが、余裕があればフォトモードにして視点を探したりしています。現実のカメラだと自分が動いて構図を決めるわけですが、やっていることは似ていても自由度は圧倒的に違いますね。
──シャッターチャンスについてはどうでしょう? フォトモードは起動した瞬間にゲーム内の時間が止まります。現実のカメラだとシャッターをきることは一瞬を切り取る行為ですが、そのような刹那性みたいなものはあるんでしょうか。
高橋さん:なくはないと思います。例えば戦闘中に技を出したり、殺陣が鮮やかに決まった瞬間にフォトモードで時間をピタっと止めてみると、すごくかっこいいシーンが作れたりしますね。ただゲームはやり直しが効きますから、現実世界より「一瞬」の重みは軽いように感じます。
あとは戦闘シーン以外だと、カットシーンやムービーなどはどこを切り取ってもかっこよく作られていると思います。そういうシーンはフォトモードが使えないものも多いと思いますが(そういう時はShareボタンを使う)。
──カッコいいアクションを決めた!→自慢したい→フォトモードでしっかり撮影したい、の流れなんですね。
高橋さん:そうですね。『Ghost of Tsushima』をプレイしてる時も「さっきの瞬間、撮っておけばよかったなぁ」と思うことが何度かあったので、シャッターチャンスというものは存在します。
──ゲームをプレイしていて、どんな瞬間にフォトモードで撮影したいと思うのでしょうか? 現実のカメラの場合は素敵な風景や残しておきたい情景を見る=心を動かされるとカメラを構えたくなるものですが。
高橋さん:やはりゲームは自由度が高いので、狙った画を撮りたいと思った時にフォトモードを起動することが多いです。Shareボタンで簡単にSNSに投稿して皆に見てもらえるので、インスタ映えじゃないですけど、その部分への欲求も強いと思います。カッコいい瞬間、バグった瞬間、きれいな瞬間を見て欲しいという気持ちかなと。
──狙った画を撮るという意味だと、現実の方は天候や環境もコントロールできないものだらけですから、フォトモードとは大きく違う部分ですね。
現実を基にした画と、空想を描いた画
──『Ghost of Tsushima』には「黒澤モード」という、昔の日本映画をシミュレートしたモノクロの状態でプレイできるモードがありますね。あれについてはいかがでしょう?
高橋さん:僕、黒澤監督についてはあまり詳しくなかったので、『七人の侍』と『生きる』を見たんです。鑑賞中はどこがすごいのかよくわからなかったので調べてみたら、撮影方法が独特だったらしくて。黒澤監督は絞り込んだ望遠レンズで遠くから撮影することで遠近感をなくし、パンフォーカスでの撮影にこだわっていたのを知りました。たくさん絞るから光量も必要で、撮影現場は火傷しそうなほど大量の照明を使ったらしいんですよ。
その結果、ボケがほとんどない映像になる。これって、画面の全部にピントが合っているゲームの絵に共通するものがありますよね。なので、黒澤モードで撮影する時は、ボケを少なくして望遠気味に撮るとより黒澤監督っぽい画になるのでは...とシミュレートしていました。
──黒澤映画の撮影スタイルをゲームに応用できるんですね!
高橋さん:一方で、こちらもフォトモードが優秀な『DEATH STRANDING(デス・ストランディング)』は、北米大陸を舞台にしているものの登場する施設などは非常にSF的です。一方で大自然のなかを運歩する面白さもあって、そうした非現実感のある写真が盛り上がっています。「#デススト写真部」なんていうタグがあって、人によってはノーマン・リーダスのかっこよさをひたすら撮る人もいます。こっちは逆にリアルでのカメラ知識があまり関係ない楽しみ方なんじゃないかなと。何がかっこいいかを探りながら撮っていく気がします。
──『デススト』のフォトモードは今年4月のアップデートで追加された機能ですから、比較的新し目ですね。
高橋さん:あと発売延期しちゃいましたけど『サイバーパンク2077』を僕はすごく楽しみにしています。間違いなくSFなビジュアルになるので、あの世界を歩いて撮影できるのを楽しみにしています。
──『サイバーパンク2077』の舞台となるナイトシティのビジュアルは、現実のどこかというより『ブレードランナー』をはじめとするSF映画を想起させますよね。僕も楽しみにしているタイトルなので、フォトモード目線でも楽しんでみたいです。
現実のカメラは、上手くいかない工程も楽しみのひとつ
高橋さん:先日友達とキャンプに行った時に、せっかく覚えたカメラ知識を使いたくて撮影係を買って出たんです。でも、現実の撮影は自分の足で視点を探さないといけないし、チャンスを待つ時間も発生するしで、当たり前のことなんですけどフォトモードみたいに上手くいかないんですよね。でも、こうした試行錯誤自体が現実のカメラ体験で、魅力なんだろうなと。
──フォトモードのように画角やタイミングも自由にいきませんよね。
高橋さん:現実の撮影は何かと制限があるから工夫しないといけない。でも、フォトモードの方は「こうすればこうなるだろう」と決め打ち気味に画を作れるので、そこは同じ撮影でも違う部分かと思います。
──高橋さんは現実のカメラを勉強して、そこからフォトモードも現実の撮影も楽しみつつ、フォトモードをきっかけに撮影技法や歴史などに興味をもっていったという、カメラきっかけで色々な経験をされていると感じました。
高橋さん:せっかく買ったカメラはやっぱり使いたいですし、知識も使いたいですからね。カメラを買ってなかったらフォトモードにも興味がなかったと思います。実際にフォトモードの記事も書いたりするんですけど、コメントで「こうすればかっこよく撮れるんだ」「撮り方の参考になった」という声ももらっているので、カメラに興味がなく普通にゲームを楽しんでる人にとっては、フォトモードというのは扱いにくい認識なのかなと思います。
オススメのフォトモードを楽しめるゲーム
──最後に、高橋さんがオススメする、フォトモードを楽しめるゲームをいくつか教えてもらえますか?
高橋さん:今なら『Ghost of Tsushima』はやっぱりオススメです。フォトモードがよくできていて、被写体深度を細かく設定できたり、ティルトレンズみたいな撮影もできたりします。画面を90度回してのポートレート撮影もありますし、カメラの知識を持ってる人ならかなりディープに楽しめますよ。
あと、フォトモードというわけではないんですが『マインクラフト』も楽しいです。クリエイターモードという自由に空を飛べて建築をメインで楽しむモードがあって、凝った建物もしっかり作り込めるんです。ハマった人なら完成した建築物や構造体を撮影したくなると思います。遠景だけでなく内装も作り込めるので、そういったコダワリを誰かに知ってほしいという気持ちで、色々と楽しめるんじゃないかと。
──ここに『マイクラ』が入ってくるのは意外ですね。
高橋さん:あと、今僕がハマってる『Satisfactory 』っていうSteamに出てるゲームも、資源採掘して工場を作るというゲームなんですけど、面白いです。フォトモードもありますし、なにより「自分が作った効率的な工場たちを見てくれ」という気持ちが高まるので、ハマる人にはハマるんじゃないかと。
猛暑にコロナと、気軽に写真撮影へ行きづらい昨今ですが、持ち得た知識をフル活用してフォトモードで最高の一枚に挑んでみるのも一興ではないでしょうか。新しい写真体験は、メタバースやゲームの中にあるのかもしれません。
Photo: 高橋雄希
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