これまでのコンピュータよりも桁違いに高速な計算が可能な量子コンピュータ。巨大な経済価値を生むと期待され、世界中で投資額が急増しており、さまざまな業界のビジネスで活用が進んでいます。量子コンピュータにはどれぐらいのインパクトがあり、どこまで実用化が進んでいるのでしょうか。日本総合研究所 先端技術ラボの間瀬英之さん、身野良寛さんの著書『量子コンピュータまるわかり』(日経文庫)を抜粋・再構成。
1兆2000億ドル以上の経済価値を生む
私たちの生活にかかわる多くの部分において、量子コンピュータの活用が期待されています。また、身近な問題だけでなく、社会レベルの大きな問題の解決も期待されています。
米マッキンゼーの調査によれば、量子コンピュータによって生み出される経済価値は、2035年までに6200億ドルから1兆2700億ドル(184兆円。1ドル=145円で換算)に達する可能性があるとしています。また、米ボストン・コンサルティング・グループの調査では、2035年頃に、新たな収益の創出とコスト削減により、ユーザ側に4500億ドルから8500億ドルの利益が生み出されると推定されています。
特に、エネルギー・材料、創薬、自動車、金融などの領域で大きな潜在的価値があると期待されています。エネルギー・材料、創薬では素材の材料探索や開発効率化、自動車では電気自動車のための高性能バッテリーの開発や渋滞の緩和などの交通制御、金融では複数の株式から最適な組み合わせを選ぶポートフォリオ最適化や、少ない計算量で高精度のリスク計算を行う金融リスクシミュレーションなどでの活用が検討されています。
では、現在の量子コンピュータの実用化状況はどうなっているのでしょうか。その答えは、世界中で多数の取り組み、実証実験が行われており、一部では実現場で利用が始まっている段階です。しかし、現在の量子コンピュータ技術は万能ではありません。各社のプレスリリースなどの発表をよく見ると、量子コンピュータ利用による結果の比較対象が人手作業であるなど、本当に量子コンピュータの利用で有用な効果を発揮したのかはハイプ(誇大広告)を疑うべき状況であり、冷静に見極める必要があります。
2019年、グーグルによる量子超越性の発表
量子コンピュータは、2019年に米グーグルが量子超越性を発表し、新聞やニュースで取り上げられ、一般にも知られるようになりました。量子超越性とは、現在私たちが使っている古典コンピュータでは現実的な時間で解けない問題を、量子コンピュータなら解けることを証明することです。古典コンピュータの古典は、古いという意味ではなく、非量子と捉える程度で問題ありません。また、ここでの問題とは有用性を問わず、社会で実際に役立つ必要はありません。
グーグルの量子超越性とは、乱数を生成するランダム量子回路サンプリングという実用的ではない問題について、当時の最先端スーパーコンピュータ(米IBM製)で1万年かかる計算をわずか3分で解いたというものでした。
この発表後は、IBMによる反論や中国の研究チームの研究発表もあり、現在ではスーパーコンピュータを用いて、ほぼ同様の時間で計算ができるようになっています。しかし、量子コンピュータの性能が今後さらに向上すれば、現在の古典コンピュータよりも優位なコンピュータとして、社会に大きなインパクトを与える可能性があります。
からの記事と詳細 ( 量子コンピュータで経済価値180兆円超も 進むビジネス活用 - 日経ビジネスオンライン )
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