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データマーケティングの時代に欠かせない分析環境が、大手プラットフォーム事業者が提供する「データクリーンルーム」(以下、DCR)です。
クリーンルームとはいわば“無菌室”のイメージで、「生活者の個人情報を特定しない」形でデータを分析し、結果を施策に活用できるのが特徴。マーケティング施策から事業成長まで、さまざまな課題解決が可能です。DCRというと「分析ツール」と思われがちですが、事業活動に欠かせない「マーケティング基盤」なのです。
そしてDCRは、単体ではなく、クライアント企業が持つファーストパーティデータや、生活者の意識データなど、他の基盤やデータと組み合わせることでさらに真価を発揮します。
本連載では、さまざまな企業におけるDCR実践・活用事例を紹介しつつ、その可能性を探っていきます。今回は準備編として、電通データ・テクノロジーセンターでデータマーケティングに取り組む三谷壮平が、「DCRで今実現できていること」をまとめました。
▼分析基盤だけでは終わらない、「打ち手」に直結するのがDCRの強み
▼DCRで、実際に企業のどんな課題を解決できるのか?
「データに基づくマーケティング」が事業成長のドライバーになる時代に
すでに多くの企業が取り組み始めている、DCR。ウェブ電通報でも何度も取り上げています。
【データクリーンルームとは?】
さまざまなプラットフォーム事業者が提供する、個人が特定されないセキュアなデータ環境のこと。生活者のプライバシーを保護しつつ、従来のサードパーティークッキー使用時と同等以上の高度な広告配信や効果検証が可能になる。
DCRが注目される背景のひとつに、「データに基づくマーケティング」の重要性が増していることが挙げられます。
企業の視点から見ると、生活者ごとにパーソナライズされたコミュニケーションを行うことで、より効果的なマーケティングが実行できます。そのためには、ユーザーの行動や趣味嗜好といった「データ」が必要になります。
データに基づき設計されたコミュニケーションは、より生活者それぞれに合った情報提供となるので、顧客体験が向上します。それは顧客のロイヤルティを高めることにもつながり、企業の事業成長に貢献します。
もちろんデータの活用は、昔から効率的なマーケティング戦略の重要な要素でしたが、ここ数年でその傾向は加速しています。その理由は大まかに以下の3つに分けられます。
■理由1:取得できるデータが増えている
スマートフォンの普及やデジタル技術の浸透により、企業と生活者の接点が増え、さまざまな接点から生活者理解に役立つ各種のデータが取得できるようになりました。
それに伴いプライバシーの問題も生まれていますが、法整備も進んでおり、適切な「利用許諾の取得」が前提となっています。場合によっては利便性や、パーソナライズされた情報を求めて、生活者側から積極的にデータ提供を行うケースも増えてきました。
■理由2:データの加工・分析が容易になった
従来、大規模データの処理には多大なコストが必要でした。しかし、技術革新によってデータ処理にかかる費用は大幅に安くなってきています。
■理由3:分析結果を生活者とのコミュニケーションに反映しやすくなった
理由1とも関連しますが、デジタルメディアや企業サイト、アプリなどの「インタラクティブな顧客接点」が増加したことで、データに基づいてパーソナライズされたコミュニケーションを取り入れやすくなってきました。
生活者データに基づくマーケティングは、今や事業成長のための重要なドライバーとなっているのです。
分析基盤だけでは終わらない、「打ち手」に直結するのがDCRの強み
前述したとおり、DCRはプラットフォーム事業者が提供する「データの分析基盤」です。
今の時代、データ分析環境は多数ありますが、なぜその中でもDCRが注目に値するのでしょうか?
こちらも、3つの理由で解説します。
■理由1:DCRならではのデータにアクセスできる
プラットフォーム事業者は、それぞれさまざまな生活者データを持っています。クライアントの広告配信結果はもちろん、プラットフォームによっては「興味関心データ」「行動データ」など、生活者理解に役立つデータを保有しており、DCRからアクセスできるケースがあります。
なおDCRは、ユーザーのプライバシーを保護しつつ、マーケティングのための分析を両立できる環境として開発されてきた経緯があり、プライバシー保護のためのルールが厳格に定められています。
厳格な保護ルールがクリアな形で整備されているため、従来は外部からアクセスできなかった生活者データにも、一定の制限付きでアクセスができるのです。
■理由2:データの突合・加工がしやすく、高度な分析ができる
当然ながら、1社の持つデータだけではマーケティングへの活用が不十分です。その点、DCRで扱えるのは、プラットフォーム事業者の保有データだけではありません。
クライアント企業が自社で保有しているCRMデータなどの「ファーストパーティデータ」に加え、第三者のデータベンダーがユーザーから許諾を得て収集したテレビの視聴履歴や購買履歴といった「サードパーティデータ」を、外部データとしてクリーンルーム内にアップロードできます。
これら全てのデータを用いて、DCR内では任意の切り口で集計分析ができます。プラットフォームによっては「予測モデル」や「クラスタリング分析」などの高度な分析にも対応しています。
■理由3:分析結果を施策に接続しやすい
DCRは、もともと豊富な「顧客接点」を保有するプラットフォーム事業者が提供している基盤です。つまり、そこで得られた分析結果は、そのプラットフォーム内の広告配信などの施策にスムーズにつなげやすいのです。
また、プラットフォームによっては、1to1のメッセージ送信が可能な顧客接点を持っています。この顧客接点を通じて、データ利活用の「許諾取得」も含めた、インタラクティブなコミュニケーションが可能なケースもあります。
これら3つの特徴から分かる通り、DCRは単なるデータ分析環境という以上に、「生活者理解に役立つデータへのアクセス」と、「分析結果をマーケティング施策にそのまま接続できる」という特徴を兼ね備えています。だからこそ、マーケティング基盤としてのポテンシャルが大きいと言えるのです。
なお、「データの活用と収集を行うことができるマーケティング基盤」という観点では、カスタマーデータプラットフォーム(CDP)と似ていると思われる方もいるかもしれません。実際に、期待されている役割や機能などは近いものだと言えます。
両者の違いは、CDPは既存顧客を中心として「関係の強化」のために使われるケースが多いのに対して、DCRはプラットフォームという自社とは別の顧客接点に立脚していることから、新規顧客を「開拓」するのに向いている、と整理することができます。決して排他的な関係ではないため、目的に応じてCDPとDCRを併用していくのが良いでしょう。
DCRで、実際に企業のどんな課題を解決できるのか?
ここまで見てきたように、DCRは「生活者理解」と「施策接続」のための魅力あるマーケティング基盤だと言えます。
では、それによって具体的にどのような企業課題を解決できるのでしょうか?
電通では、クライアント企業ごとに異なるさまざまな課題を類型化し、以下の4つの領域でDCRを活用したソリューションを提供しています。
■Insight:ユーザー像を分析し、示唆を導き出す
<課題>
ユーザー像分析には、よく意識調査が使われます。しかし、それだけではユーザーが無意識下で行っている行動や、ロイヤルティを測ることはできず、分析結果を施策ターゲットにひもづけることは困難です。
<解決>
DCRでは、大規模ユーザーの興味・行動・購買などから、より解像度の高いユーザーのインサイトを発見できます。
■Activation:広告配信、販促など施策への接続を行う
<課題>
分析で見つけたターゲットにそのまま広告を配信できるとは限りません。せっかくのターゲット像が、実際の配信時には別のターゲットに変わってしまうケースもありえます。
<解決>
DCRでは、「分析」も「配信」も生活者との接点が多いプラットフォームで行うため、分析結果のターゲット像に対してスムーズにアプローチできます。
■Measurement:投資に対するリターンを測定する
<課題>
広告効果の検証は、施策の目的と評価指標が合致している必要があります。例えばターゲットリーチが目的の施策の場合、評価指標は「ターゲット含有率」であって、全体のクリック率ではありません。しかし、技術的な限界によって、目的と合致しない指標で代用するケースもありました。
<解決>
DCRでアクセスできるさまざまなデータを組み合わせることで、施策の目的と合致した正確な効果測定が実現できます。また、その測定結果と事業成果の関係をDCR上の機械学習モデルによって説明することで、実際の事業成果への貢献を示し、次回以降の施策のROIも推定できます。
■Optimization:成果を最大化する運用の最適化を行う
<課題>
最終的な事業成果への貢献を考えたときに、デジタル運用型広告の果たす役割に触れないわけにはいきません。いくら高度な分析をしたとしても、広告運用が穴だらけだとしたら成果は上がらないでしょう。分析と運用の両輪がそろうことが、事業成長には必要不可欠です。
<解決>
何度か触れた通り、プラットフォーム事業者はさまざまな顧客接点を持っており、データ分析と、分析結果に基づいた広告配信が直結しているのが強みです。ただし、技術的に可能であっても、実際に運用するノウハウは必要です。後述しますが、分析だけの会社ではなく、広告会社でもある電通では、広告運用の最適化につなげることまで見据えた分析設計を実現しています。
なお、これら4つの領域はひとつひとつ独立しているのではなく、ほとんどの場合はDCR上での連続したマーケティング活動として行われます。
解決したい課題に応じたデータを用いてユーザー分析を行い、最終的な打ち手につながる示唆の獲得と、実際の施策反映まで含めた一連のパッケージとして、複数を横断的に活用していくことが重要です。
もちろん、DCRだけで全ての課題を解決する必要はなく、企業ごと・課題ごとに、柔軟なDCRを活用することも可能です。
電通では、これら4つの領域をプロダクトとしてパッケージにした「TOBIRAS」というソリューションを企業に提供しています。
「TOBIRAS」という名称には、DCR(部屋)での分析を支援し、価値を最大限引き出す「扉」になるという意味を込めています。詳細はこちら
この連載では、電通のクライアントとともに、さまざまなDCR活用事例を紹介していく予定です。
今回は最後に、DCR活用において重要な「データから企業成長につながる示唆を得るための工夫」について触れたいと思います。
■工夫1:分析のための分析にしないこと
分析できるデータや技法が多くなると、つい「高度な分析」をしたくなりがちです。しかし、その分析から得られた示唆が、実際にはターゲティングに落とし込めない粒度だったり、ターゲットが少なすぎてインパクトがほとんどなかったりすると、事業成長への貢献は見込めません。分析結果を具体的な施策につなげ、成果を上げるという「分析をする目的」を見失わないことが重要です。
■工夫2:KPI自体の妥当性を問い直すこと
よくある事業KPI設定のやり方として、「事業成果への貢献を直接計測する手段がないので、本来目指す事業成果に対する中間地点をKPIに設定した」というものがあると思います。
しかし、DCRを用いることでアクセスできるデータは増えますし、機械学習など分析の高度化もあり、より「直接的」に、施策の事業成果への貢献を評価できるケースが増えています。適切なKPIは、適切な施策の出発点なので、まずはKPIから問い直すのが良いでしょう。
■工夫3:効果検証まで組み込んで設計すること
DCRの4つの活用領域のうち「Measurement」の部分に該当しますが、「施策の成否の判断基準」を目的に応じて正しく設計することで、分析や施策実施を改善していくことができます。何より重要なのは、DCRでの施策の費用対効果を適切に評価することです。これにより、単なるコストではなく、リターンのある投資として継続的に実施できるようになります。
もちろん、この3点を工夫しても、データの不足や技術の限界などによって、常に100点の示唆が得られるわけではありません。しかし、たとえ60点であっても、勘や経験だけに基づく意思決定よりは再現性が高いはずです。また、データを蓄積することで、中長期的に70点、80点……と精度を高められるでしょう。
そしてDCRは、基本的には「分析環境」です。何を目的として、どういった分析をするのか?その明確な意図があって、はじめて企業成長につながる示唆を得ることができ、分析環境を「マーケティング基盤」として活用できるようになります。
この連載を通して、そんなDCRを使いこなす、最新のヒントをお届けできればと思います。
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