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Monday, July 25, 2022

「量子の谷」をどう乗り越えるか、Q2B Tokyoで見えた進路 - ITpro

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 量子コンピューターのビジネス応用に関する国際会議「Q2B22 Tokyo」が2022年7月13、14日に東京で開催された。Q2Bは米シリコンバレーで毎年12月に開催されてきた会議で、米国外で開かれるのはこれが初めて。ベンダーやユーザー企業、研究者による講演からは、量子コンピューターを巡る期待と課題がみえてきた。

 量子コンピューターに対する産業界の期待は、ここに来て高まる一方だ。Q2B22 Tokyoの基調講演には米Boston Consulting Group(ボストン・コンサルティング・グループ、BCG)のMatt Langione(マット・ランギオーネ)パートナーが登壇し、量子コンピューターが実用化した場合に生み出す経済効果に関する予測を紹介した。

米Boston Consulting Group(ボストン・コンサルティング・グループ、BCG)のMatt Langione(マット・ランギオーネ)パートナー

米Boston Consulting Group(ボストン・コンサルティング・グループ、BCG)のMatt Langione(マット・ランギオーネ)パートナー

(写真:日経クロステック)

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 ランギオーネ氏は、量子コンピューターが実用化すれば、新規材料開発や創薬、金融市場におけるリスク予測などが目覚ましく高速化し、4500億ドルから8500億ドルもの経済効果がもたらされる見込みとする。

 量子コンピューターがもたらす「疎で巨大な行列に関する計算能力」(ランギオーネ氏)が活用できるアプリケーションとしては「シミュレーション」「最適化」「機械学習」「暗号解析」があり、100を超える産業分野に数十億ドル規模の経済効果をもたらすという。

 量子コンピューターの活用に特に積極的なのは金融業界で「既に世界トップ10の金融機関のうちの8社が、量子コンピューターに関する取り組みを始めている」(ランギオーネ氏)。それに続くのが化学業界だ。これらの企業がいち早く動いているのは「量子コンピューターが生み出す経済効果の90%は、トップ10%のアーリーアダプターが獲得する」(同氏)との見方があるためだ。

 量子コンピューターがいつ実用化するかは定かではないが、実用化した時点で量子コンピューターを使いこなせていなかったら、競合に大きく後れを取ってしまう――。そうした危機感がユーザー企業を動かしているのが現状だ。

「量子の谷」を懸念する声も

 期待が高まる一方で、量子コンピューターの先行きに関する懸念も高まっている。Q2B22 Tokyoでそれを指摘したのは、量子アニーリングの提唱者として知られる、東京工業大学の西森秀稔特任教授だ。

東京工業大学の西森秀稔特任教授

東京工業大学の西森秀稔特任教授

(写真:日経クロステック)

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 西森特任教授が紹介したのは、量子コンピューターのアルゴリズム研究で著名な米マサチューセッツ工科大学(MIT)のSeth Lloyd(セス・ロイド)教授の見解だ。ロイド教授は西森特任教授が2022年6月に主催した会合で行った講演で、近い将来に量子コンピューターの技術的な発展が停滞し、産業界からの期待や投資が減衰する「量子キャズム(量子の谷)」の時期がやってくる可能性があると指摘したという。

 現在の量子コンピューターに向けられた熱狂は、米Google(グーグル)など量子コンピューターを開発する企業が、誤り耐性量子コンピューターを2030年ごろに実現するとの方針を示したことに起因する。しかし誤り耐性量子コンピューターの開発は難しく、産業界の期待通りには技術発展が進まない可能性もある。ロイド教授はそうした谷の時期に技術開発を盛り上げられるかどうかが、量子コンピューター発展の鍵を握ることになると説いた。

 ロイド教授や西森特任教授が「量子の谷」を乗り越える鍵として期待するのは「量子シミュレーション」だ。ある量子現象を量子デバイス上で再現して、量子現象のメカニズムを明らかにする取り組みで、新材料の開発などへの応用が期待できる。

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