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Tuesday, May 31, 2022

量子コンピューターで化学はどう変わる、期待されるアルゴリズムの実像 - ITpro

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 量子コンピューターのビジネス応用が期待されているのは、化学、金融、数理最適化などの分野だ。本連載はこれらの分野で量子コンピューターについてどんなPoC(概念検証)が実施されているか、今後PoCを始めるなら何を考慮すべきかを解説する。今回は化学の分野について紹介しよう。

 化学分野では、電池や医薬品、素材・繊維などの開発に量子コンピューターの応用が検討されている。現在は電池などの新しい材料を開発する際、技術者がまずは経験的に材料の候補をいくつか作ってみて、各候補の特性を実験で検証したうえで、良い候補があればそれを製品化するのが基本的なセオリーだ。

 こうした試行錯誤には膨大な時間と労力がかかる。そこで量子化学計算と呼ばれる原子や分子のシミュレーションを導入し、材料の特性をコンピューターで予測することで、実験の手間の削減を目指す取り組みが進んでいる。しかし量子化学計算には膨大な計算量が必要なため、スーパーコンピューターを使っても有意義な結果を得られていないのが実情である。

 そこで登場するのが量子コンピューターだ。量子コンピューターは量子のふるまいを表現するのが得意なため、量子化学計算を効率的に実行できると期待されている。実験による試行錯誤を繰り返さなくても、量子コンピューターを使ったシミュレーションだけで狙った特性を持つ材料が造れるようになれば、ビジネスに与えるインパクトは大きい。こう考えた様々な化学メーカーなどが、量子コンピューターへの投資を始めている。

化学分野における量子コンピューターに対する期待と現状

観点 ポイント
将来的な期待 誤り訂正可能な量子コンピューター(FTQC)が実現すれば、複雑な分子のダイナミクスをシミュレーションするといった大規模な量子化学計算が可能になり、材料開発の期間が大幅に短縮する
現状 誤り訂正ができない現在の量子コンピューター(NISQ)による量子化学計算は、水素の基底状態計算などの限られたユースケースで簡単な分子のみ扱える
PoCの方向性 現状で利用できる量子コンピューターの実機やシミュレーターを活用して、自社ビジネスと親和性のある簡単な化学問題を解いてみる

 量子コンピューター応用の研究開発が進んでいる事例を1つ紹介しよう。感光性材料のシミュレーションだ。有機ELなどで使う発光材料の性能には、物質中の電子がエネルギーを余分に受け取った「励起状態」が密接に関係する。この励起状態の計算で、量子コンピューターの優位性が発揮できるとの期待がある。

有機EL発光材料の開発への応用が始まる

 2021年にはJSR、三菱ケミカル、慶応義塾大学、日本IBMによる研究チームが、量子コンピューターの実機を使った有機EL発光材料の励起状態計算に世界で初めて成功した。まだまだ現行方式のコンピューターでもシミュレーションできるような小さい規模の計算を量子コンピューターで実行しただけだが、実機を使った有用な計算への道筋をつけたものとして、その後の研究が期待されている。

 この共同研究は、慶応大学と日本IBMが慶応大学内に設けた量子コンピューターの研究拠点「IBM Quantum Network Hub at Keio University」に、JSRと三菱ケミカルの研究者が参加して進められた。慶応大学のこの拠点は、日本における量子コンピューター応用の一大拠点である。

 国内でもう1つ注目したい研究拠点は、量子化学計算に強いベンチャー企業であるQunaSysだ。同社が主催する勉強会の「QPARC」には、約30社の国内大手企業が参加し、量子コンピューターの理解や活用研究に取り組んでいる。日本国内で幅広い分野の企業が量子コンピューターに興味を持ち、投資を始めていることの象徴といえる。

 続いて量子コンピューターの化学分野への応用に関する、最近の技術トレンドを紹介しよう。

 そもそも化学分野で量子コンピューターの応用が期待されるのは、量子コンピューターは電子の量子状態を容易に表現可能なため、物質中での反応のシミュレーションや物理量の計算を効率化できると考えられているからだ。

NISQで量子化学計算、VQEの仕組みと課題

 従来はこうしたシミュレーションを実行するには、量子ビットの誤り訂正ができるFTQC(Fault Tolerant Quantum Computer、誤り耐性量子コンピューター)が必要だと考えられてきた。それが最近は、量子ビットの誤り訂正ができないNISQ(Noisy Intermediate-Scale Quantum Computer、ノイズがありスケールしない量子コンピューター)でも、上手にNISQのポテンシャルを引き出せれば、化学に関する有用なアプリケーションを開発できるとの期待がある。こうした事情から、NISQ向けの量子アルゴリズム研究が活発になってきた。

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