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Thursday, March 31, 2022

国産量子コンピューターのテストベッドも稼働へ、人材育成に弾み - ITpro

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 量子コンピューターの実用化に備えるには、量子コンピューターを使いこなせる人材が産業界にもっと必要だ。日本では2023年にも、国産の量子コンピューターを試せるテストベッドが稼働する見込みだ。環境が整備されることで、産学による量子人材の育成に弾みがつきそうだ。

 内閣府は2022年4月中に「量子技術イノベーション戦略」の見直し案を公表する予定だ。量子技術イノベーション戦略とは、内閣府が2020年1月に定めた量子技術に関する国家戦略だ。量子コンピューターをはじめとする量子技術の開発や導入に向けた施策が盛り込まれていた。

 ところが国が量子技術イノベーション戦略をまとめた後、米Google(グーグル)をはじめとする米国勢が、量子コンピューターの実用化に関する野心的なロードマップを公表し始めた。それまでは2050年ごろとみられていた量子コンピューターの実用化が、早まる可能性が出てきた。これを受けて内閣府は2021年10月から、戦略の見直しに向けた議論を始めた。

 国内・国外の量子技術動向について詳しい、産業技術総合研究所新原理コンピューティング研究センターの川畑史郎副研究センター長は、今回の戦略の見直しについて「社会実装が重要なキーワードだ」と話す。社会実装とは、量子コンピューターをビジネスで活用できる環境を国内に整備することを指す。量子コンピューターが予測よりも早く実用化された場合に備えて、量子コンピューターを使いこなせる環境の整備や人材を育成することにも、力が注がれる見通しだ。

産学連携の取り組みは一層盛んに

 日本でも既に産業界と大学が、量子コンピューターの活用に向けた連携を始めている。慶応義塾大学と米IBMが2018年5月に設けた「IBM Q Network Hub」がその先駆けで、2020年7月には東京大学が「量子イノベーションイニシアティブ協議会」(QII協議会)を設立。2021年4月には大阪大学が「量子ソフトウエア研究拠点」を設けた。いずれの組織にも民間企業が参画し、大学の研究者との共同研究や人材育成を進めている。

日本における量子人材育成に関する連携機構

名称 中心的な組織 参画する企業 概要
量子イノベーションイニシアティブ協議会(QII) 東京大学 ソニーグループ、東芝、トヨタ自動車、日本IBM、日立製作所、三菱UFJフィナンシャル・グループなど 東京大学が占有使用権を持つIBMのゲート型量子コンピューターの実機を使い、社会実装に向けた民間企業との共同研究を進める。
量子ソフトウェア研究拠点 大阪大学 豊田通商、QunaSys、AGC、JX石油開発、DIC、東ソー、ブリヂストンなど 大学・企業双方に量子コンピューターを扱える人材を増やすことを目的に、量子人材の育成からユースケース探索・創出、共同研究から事業化まで一貫で取り組む。
NICT Quantum Camp 情報通信研究機構(NICT) 非公開 量子ICT分野の研究人材や製造・金融・セキュリティーなどの分野で量子技術を応用できる人材の育成を目的とする。講義やワークショップからなる体験型人材育成と量子技術に関する調査・研究などに資金面で支援する探索型/課題解決型人材育成になどに取り組む。
QPARC QunaSys 三菱ケミカル、ENEOS、豊田中央研究所、ブリヂストン、富士フイルム、DIC、パナソニックなど 企業の研究者を対象に、量子化学計算を中心とした講義やプログラミング演習などを提供し、材料開発を中心とした量子化学計算のユースケースの探索などに生かす。参加者は講義受講後、グループごとに分かれてユースケースの探索に取り組む。

 民間企業や研究機関が主催する量子人材育成プログラムや勉強会も存在する。量子ソフトウエア開発のスタートアップであるQunaSys(キュナシス)が主催する「QPARC」や、情報通信研究機構(NICT)による量子ICT人材育成プログラム「NICT Quantum Camp(NQC)」などである。

 内閣府による量子技術イノベーション戦略の見直しを受けて、産学の連携がさらに加速する見通しだ。例えば経済産業省は産業技術総合研究所(AIST)において、企業と連携して量子人材を育成するプロジェクトを始めることを検討している。

大阪大学に国産量子コンピューターのテストベッド

 量子コンピューターに関する産学連携拠点の中でも注目に値する動きを見せるのが、阪大の量子ソフトウエア研究拠点だ。阪大は2023年度に国産量子コンピューターを稼働させ、量子ソフトウエアなどを試せる「テストベッド」として公開する計画があるからだ。

 阪大の量子コンピューターは、理化学研究所量子コンピュータ研究センターの中村泰信センター長が開発を進めてきた超電導方式の量子ビットを搭載する。量子ビットの数は16個だ。 理研の中村センター長は文部科学省が進める「光・量子飛躍フラッグシッププログラム(Q-LEAP)」の「Flagshipプロジェクト」と連係して、この量子ビットを開発してきた。

 現在、日本でも量子コンピューターの実機を使ったソフトウエア開発などが進んでいるが、その実機はいずれも、米国企業が開発したものである。阪大がテストベッドを公開すれば、国産の量子コンピューターの実機を使ったソフトウエア開発が可能になる。

制御装置やシステムソフトは阪大製

 阪大の量子コンピューターは、量子ビット以外の制御装置やシステムソフトウエアなども“阪大製”だ。制御装置やミドルウエアは、阪大発のスタートアップであるキュエルが開発する。キュエルには阪大の研究者が参画し、阪大からライセンスを受けて制御装置やミドルウエアを販売している。

 キュエルの取締役CSO(最高科学責任者)でもある阪大の根来誠准教授は「今の量子コンピューターは、グーグルや米IBMなどのメーカーがすべての要素の仕様を決めて開発する垂直統合型のビジネスモデルだ。しかし現在のコンピューターのように一般的な仕様が定まれば、量子コンピューターも水平分業での開発・製造になり得る」と指摘する。

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