日本のエネルギー政策の基本的な方向性を示す「第6次エネルギー基本計画」が2021年10月22日に策定されました(「2050年カーボンニュートラルを目指す 日本の新たな『エネルギー基本計画』」参照)。計画には、「2050年カーボンニュートラル」実現に向けた課題と対応、日本のエネルギー需給構造が抱える課題の克服などを中心に、さまざまな方針が盛り込まれています。その内容について詳しくご紹介するシリーズ、第2回では、再生可能エネルギー(再エネ)の中でも大きな割合を占めるようになった太陽光発電の今後の方向性について見ていきます。
さらなる導入拡大に向けて
再エネの主力として、導入が拡大し続ける太陽光発電。その発電コストは着実に低減しており、全国で導入が進められています。しかし、いかに地域との共生をはかっていくか、安全性の問題をどう確保するかなど、乗り越えるべき課題も出てきていることは、「もっと知りたい!エネルギー基本計画①再生可能エネルギー(1)コスト低減、地域の理解を得てさらなる導入拡大へ」でも示した通りです。
2050年カーボンニュートラルに向けて、今後さらに導入を拡大していくためには、地域と共生しつつ発電設備の適地を確保することや、さらなるコスト低減に向けた取り組み、技術革新などが必要です。
そこで、「第6次エネルギー基本計画」では、今後の適正な導入拡大に向けた政策の方向性が示されました。以下、太陽光発電に関する具体的な取り組みについて見ていきましょう。
荒廃農地や空港など、発電設備の適地を確保
太陽光発電は拡大しているとはいえ、FIT制度(固定価格買取制度)導入初期のころからくらべると、近年、認定量は低下しています。その一因として、急激な導入拡大により地域でトラブルが発生したことや、自然環境や景観の保全を目的とした自治体の条例も増加するなど、事業を実施できる適地が不足しているとの声もあります。
そこで、適正な事業者によって地域と共生しながら導入を推進するための政策のひとつとして、「再エネの促進区域の設定(ポジティブゾーニング)」を推進していきます。ポジティブゾーニングとは、「改正地球温暖化対策推進法」という法律に基づくもので、地方自治体が地域の再エネ導入量の目標を設定し、環境や景観保全の観点、社会的配慮なども考慮して、再エネを促進させる「促進区域」を設定し、事業者に対し、適地への誘導をうながすしくみです。
ただし、平地の少ない日本では、空き地などに太陽光パネル設備を設置する「野立て太陽光発電」が可能な場所はかぎられているため、こうしたしくみ以外の選択肢もさぐっていく必要があります。
たとえば、再生の難しい荒廃農地に再エネ設備を設置したり、営農しながら太陽光発電を導入する「営農型太陽光発電」をおこなう、などです。農地の利用については、自治体に設置されている「農業委員会」の許可が必要となります。優良な農地の確保を前提として、荒廃農地を再生利用する場合の条件を緩和したり、再生困難な荒廃農地についての非農地判断の迅速化といったことについては、国(農林水産省)が基準を示すことで、各地の農業委員会の判断をスムーズにし、再エネ導入の拡大をはかっていきます。
空港などインフラ空間の活用も進めます。航空分野では、バイオジェット燃料の開発など、カーボンニュートラルへの取り組みが進行中で、その一環として、空港での再エネ導入の動きが今後加速すると見込まれます。
また、住宅などの建築物に設置される再エネについても、これまで以上に導入拡大をはかります。2050年には設置が合理的だと判断される住宅・建築物には、太陽光発電設備の設置が一般的になることを目指し、その途上の2030年には新築戸建て住宅の6割に太陽光発電設備の設置を目指します。
住宅だけでなく、新築の庁舎や政府が新築する建築物についても、太陽光発電設備を最大限設置することを徹底し、既存の公有地などにおいても可能な限り設置を拡大します。また、「ZEH」(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)や「ZEB」(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)といった省エネ対策により大幅な省エネルギー化を実現した上で、再エネなどを導入することにより、年間の一次エネルギー消費量の収支がゼロとすることを目指した住宅・建築物について、支援などを通じてさらなる普及拡大を目指します。
発電コストを低減し、新たな導入モデルも推進
再エネの発電コストは年々低減していますが、国際水準と比較するとまだ高いレベルにとどまります。そこでさらなるコスト低減を進めながら、これまでのFIT制度などによる支援から自立した電源となるための取り組みを促進します(「『法制度』の観点から考える、電力のレジリエンス ⑤再エネの利用促進にむけた新たな制度とは?」「再エネを日本の主力エネルギーに!『FIP制度』が2022年4月スタート」参照)。
また、FIT・FIP制度を前提としないケース、たとえば発電した電気を自宅などで使う「自家消費モデル」など、あらたな導入モデルを推進するための環境も整備していきます。
軽くて柔軟な太陽光電池を開発
現在、主流となっている太陽電池は、コストは低くなってきてはいるものの、設置できる場所には制限があります。たとえば、耐荷重の小さい既存の建築物の屋根や壁面などでは、太陽電池の重さに耐えきれないため、設置が困難です。しかし、こうした太陽光パネルを張ることができなかった場所にも設置できるような、「次世代型太陽電池」の技術開発が進められています。その有力候補が「ペロブスカイト太陽電池」です。既存の太陽電池にくらべて軽量性や柔軟性にすぐれているという特徴があります。現在、耐久性の強化などの課題を克服すべく、実用化に向けて取り組みが加速しています。
軽量・柔軟なペロブスカイト太陽電池一例
不法投棄対策などを徹底し、地域と共生
こうした取り組みを進めることで、太陽光発電の拡大をはかっていきますが、最初に述べたように、発電事業は地域と共生しながらおこなわれなくてはなりません。たとえば、以前から発電事業者が事業終了後に太陽光パネルなどの発電設備を放置したり、不法投棄したりすることへの不安や懸念の声が、地域からあがっていました。
そこで「再エネ特措法」に規定された廃棄費用の積立制度の運用によって、使用済みパネルの適正な廃棄・処理がおこなわれるよう取り組みを進めます(「『法制度』の観点から考える、電力のレジリエンス ⑥再エネのポテンシャルを全国規模で生かすために」参照)。
次回は、本格的に始動する洋上風力発電をはじめ、今後拡大が期待される風力発電について、詳しくご紹介します。
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