量子力学における重ね合わせを用いて計算を行う量子コンピューターは、従来の古典的なコンピューターでは不可能なレベルのスピードで計算できることが期待されています。ところが、Googleの量子コンピューター研究チーム・Quantum AIの科学者らは、宇宙から飛来する高エネルギーの放射線である宇宙線が、量子コンピューターの動作に重大なエラーを引き起こすとの研究結果を報告しました。
Resolving catastrophic error bursts from cosmic rays in large arrays of superconducting qubits | Nature Physics
https://www.nature.com/articles/s41567-021-01432-8
A potential hangup for quantum computing: Cosmic rays | Ars Technica
https://arstechnica.com/science/2021/12/cosmic-rays-can-swamp-error-correction-on-quantum-processors/
従来のコンピューターは「0」もしくは「1」の状態しか取れないビットを使っていますが、量子コンピューターは量子の重ね合わせによって「0」と「1」両方の状態を取ることができる量子ビットを使うことで、超高速な計算が可能となっています。ところが、量子ビットはさまざまな環境要因によって意図した状態から外れてしまうため、量子コンピューターにはエラーが発生しやすいという問題があります。
この問題を解決する方法が、従来のコンピューターにおける誤り検出訂正を量子コンピューター上で行う量子誤り訂正です。量子コンピューターによる計算結果が正しいものであることを保証するために、量子ビットの誤りを正すことは重要だとのこと。
ところがGoogleの研究チームは、量子プロセッサで量子誤り訂正のテストを行っていた際に、散発的に誤り訂正が失敗してしまう奇妙な現象に直面しました。この原因について調査を行った結果、量子ビットに生じるエラーが「宇宙線」によって引き起こされていることを突き止めたそうです。
高エネルギーの放射線である宇宙線は、電荷の移動や保存に依存する古典的なコンピューターにもエラーを引き起こすことが知られていますが、量子コンピューターとは影響を及ぼすメカニズムが違います。宇宙線が量子ビットに衝突すると、振動エネルギーがフォノンと呼ばれる準粒子として振る舞います。このフォノンが量子ビットの状態を混乱させ、エラーが発生してしまうとのこと。
実際に研究チームは、プロセッサ上の量子ビットを26個選択して単一の量子状態に設定し、プロセッサをアイドリング状態で放置することで、量子ビットに宇宙線由来のエラーが生じるかどうかを観察しました。その結果、100マイクロ秒間における量子ビットの典型的なエラー率は26個中4個でしたが、たまたま宇宙線が当たるとエラー率は26個中24個に跳ね上がりました。また、プロセッサ全体における量子ビットの状態を追跡したところ、当初は宇宙線が衝突した場所に近い量子ビットに限定されていたエラーが、フォノンがプロセッサ全体に広がるにつれて、衝突箇所から遠く離れた量子ビットでもエラー率が上昇したそうです。
量子誤り訂正は隣接する量子ビットグループを単一の論理ユニットとして設定することで、個々の量子ビットに発生するエラーを検出します。しかし、宇宙線の衝突で生じるフォノンは準粒子として振る舞うため、隣接する全ての量子ビットの状態を同時に混乱させてしまい、量子誤り訂正が妨げられてしまうと研究チームは述べています。
また、宇宙線による衝突がまれにしか発生しないのであれば、エラーを含む計算結果を破棄し、再び計算を行えばひとまず正しい結果が得られます。しかし、実験で使用された比較的小さな量子プロセッサでも10分ごとにエラーを経験したとのことで、数時間かかるかもしれない計算を量子コンピューターで行うには、あまりにも宇宙線の衝突頻度が高すぎるとのこと。
残念ながら、記事作成時点では量子コンピューターに対する宇宙線の影響を軽減する方法は開発されていませんが、研究チームは天文学者らが画像ハードウェアの設計で同様の問題に直面していることを指摘。天文学者らは、フォノンの拡散を抑制するためにハードウェアの改善に取り組んでおり、同様の解決策が量子コンピューターに転用できる可能性があります。
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