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Saturday, March 7, 2020

母娘問題はいよいよフィナーレへ 『きらいな母を看取れますか?』 | J-CAST BOOKウォッチ - J-CASTニュース

 毎日多くの本に接していると、あるテーマに関連のある本が偶然次々と手元に届くことがある。先日、BOOKウォッチでは、石井光太さんの『育てられない母親たち』(祥伝社新書)を紹介したばかりだが、本書『きらいな母を看取れますか?』(主婦の友社)は、きらいな母親に育てられた娘たちが、親の看取りという最期の局面でどう行動したかを綴った本である。

著者も看取らなかった

 著者の寺田和代さんは、フリーライター・エディター。さまざまな雑誌や本の企画や取材にかかわる一方、2000年に社会福祉士の資格を取り、高齢者介護・医療の取材を続けてきた。

 本書は関係が悪い母娘の6つのストーリーを紹介しているが、冒頭に寺田さん自身のストーリーを書いている。学齢前に父が自死して、母は再婚。養父との間に3人の弟が生まれた。飲酒問題を抱えた養父は、なにかといえば、「生意気だ」と寺田さんを殴り、母もまた夫への遠慮なのか、養父以上に暴力と暴言で傷つけ、寺田さんを疎外した。

 今もPTSD(心的外傷後ストレス障害)に苦しむが、30代半ばにうつ病で倒れたのを機会にAC(アダルトチルドレン)概念を知り転機を迎えた。その後、末期がんに侵された母親には会いに行かず、見送った。

6人の当事者のストーリー

 介護の現場を取材すると、「老いた(認知症になった)親の過去の加害行為を責めるな」は不文律になっているように感じた。果たしてそうなのか。本書は、寺田さんが当事者であることを明かしたうえで、6人の当事者仲間に話を聞き、同じサイドに立つカウンセラーと弁護士に解説してもらうという構成だ。

 6つのストーリーから2つだけ簡単に紹介しよう。

 「謝罪は求めない。だけど赦さない。怒りと悔しさは一生消えないけれど本当の気持ちはいわずに別れよう」(エリコさん、53歳)

 父の不機嫌と母の過干渉で育った。短大卒業後、実家に戻る以外の選択を許されなかった。32歳で摂食障害を発症、43歳で家を出た。高齢者マンションに引っ越した母親の過干渉もパワーが落ち、マンションに来いとも言わなくなった。訪ねなくなり1年以上になるが、数か月に一度は外食や温泉に出かけるという。

 この先予想される介護については、高齢者マンションに付帯するサービスに任せる、と母親自身が決めているので心配はしていない。万が一同居しようと言われても、こう決意している。

 「赦せない気持ちを抱いたまま、母と向き合いつづけることはできません。お金や公的支援などを使って、なにがなんでも避けるでしょう。一対一で本気で向き合ったら、危険な状況になってしまうのは目に見えているから。それを避けるためにもなんとか"本当の気持ち"にはふれないまま関係を終わらせたい」

 もう1つのストーリーはこうだ。

 「母の介護はできない。母亡きあとの手続きはすべて弁護士に任せます」(ユカリさん、44歳)

 宝塚スターを夢見て宝塚音楽学校の受験を訴えたが、耳を貸さなかった母親。大学に進んでも過干渉は収まらず、パワーアップした。しかし、「母にネガティブな感情を持つことさえ、無意識に自分に禁じていました。完全に洗脳されていたんですね」。

 結婚して両親と娘夫婦でそろって外食に出かけるなど、仲がいいと思われていたが、内心は憂鬱だった。たまたま『母が重くてたまらない 墓守娘の嘆き』(春秋社)という本を読み、初めて母と自分との関係がわかったという。

 その後、ある難病にかかった母親は入院したが、会いには行っていない。この先、看取り期になったら、事情を知らない人からの無神経な言動を避けるため、自分自身が入院しようと予約もしている。

 「もし私と同じような問題を抱えたまま親の介護に直面し、苦しんでいる人がいたら、あらゆる社会資源、許す限りのお金を使って、『介護から逃げて』と言いたいです。自分の人生を失わないために」

日本の母娘問題は5期にわたる

 2008年に出版された『母が重くてたまらない 墓守娘の嘆き』(春秋社)の著者で、カウンセラーの信田さよ子さんに、寺田さんがインタビューしている。

 「墓守娘」とは、「過干渉の母親をもつ娘」を指す。当時、アラフォーだった娘たちは50代にさしかかり、母親世代の介護や認知症の問題に直面している。

 信田さんは、日本における母娘問題の歴史を5期にわけている。

 第1期は1970年代のフェミニストによる論争、第2期は1996年以降のACの登場、第3期は2008年以降の母娘問題の幕開け(墓守娘)、第4期は2012年以降の毒母、毒親の当事者本の出版、そして第5期が2019年以降、それぞれ親の介護問題に直面している現在である。

 信田さんは母親の高度な支配のテクニックについて語っている。

 「娘を自分の不幸の聞き役や叶わなかった夢の代走者にしたり、自分が家族の犠牲役を演じることで娘に罪悪感を抱かせたりするなど、実にバリエーション豊かなのです」

いま顕在化する母娘問題

 ACでも毒母でもないケースで、いま親の介護を機に否認や過小評価していた母娘関係の歪みが顕在化してきたという。

 娘の心構えについて、距離を保てる自信がないなら、距離をとりつづけるのが、正しい選択だとアドバイスしている。

 また、弁護士の松本美代子さんが、「子が老親を扶養する義務はありますか?」「法的に『親子の縁は切れますか?』」などの質問に答えている。実務的にさまざまなアドバイスをしている。

 エピローグで、寺田さんは「娘の人生に憑依した団塊世代母」という興味深い指摘をしている。被害者意識ゆえに娘世代に攻撃的になるのでは、というある当事者の声を紹介している。

 寺田さん自身は自分をACと自認しながらも、「毒」という言葉で親を断じていない。「母娘関係にも"ものわかれ"という解放の地点があることを、私は母との半世紀を超える関係のなかで知ったのだ」と結んでいる。

  

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March 08, 2020 at 06:23AM
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