オーストラリアで発生した大規模な森林火災について、事後分析した特集記事が科学誌に掲載された。研究者たちが寄稿した記事から浮き彫りになるのは、現在の気候変動があまりに急速に進んだ結果、もはや人間やコンピューターが予測可能な範囲を超えてしまったという現実だ。
TEXT BY MATT SIMON
オーストラリアの森林火災について事後分析した記事が、研究者たちによって2月24日の科学誌『Nature Climate Change』に掲載された。これらの記事で研究者たちは、オーストラリア大陸で火災が拡大した際の状況を分析し、世界中の研究者に行動を呼びかけている。気候変動は人類および自然界全般にとっての危機であるだけでなく、科学そのものにとっての危機でもあるのだ、と──。
公表された記事のなかには、驚くべき議論を展開している研究もある。今シーズンの森林火災は極めて壊滅的であったことから、シミュレーションに用いるモデルの開発者が完全に不意を突かれてしまったというのだ。
既存のモデルは、これほどの規模の森林火災が現時点で発生する可能性を予測していなかった。それどころか、今後80年以内に同様の規模の火災が起きることさえ予想していなかった。
「これはおそらく、適切なモデル化が可能になる前に、現実世界で予想外の事態が発生した最初の非常に大きな事例のひとつでしょう」と、コロラド州ボルダーにある米国立大気研究センターの気候科学者ベンジャミン・サンダーソンは言う。サンダーソンはNature Climate Changeの今回の特集で記事を共著している。「今回の森林火災は、モデルが導き出した今世紀のどの時点の予測よりもひどいものでした。同程度の火災の予想が出始めたのは、今世紀末にかけてのモデルのひとつだけでした」
「完璧」なモデルづくりの難しさ
モデルでは、数十または数百の変数の値をどのように変更すれば異なる結果につながるのか推定することにより、世界の仕組みを正確にシミュレートしようと最善を尽くす。例えば気候モデルは、大気中の二酸化炭素の量の増加に伴って温暖化がどれだけ進むのかをシミュレートする。
政治モデルの場合は、投票数や過去の有権者投票率などのデータを使って、候補者の勝率を予測する。火災モデルでは、過去に乾燥の程度や植生によって、どの程度の森林火事が発生したかという観察データを利用して計算する。
「完璧なモデルなどないが、なかには役立つものもある」という有名な言葉があるが、その通りである。科学者は膨大な量のデータにアクセスできるが、現実世界の複雑さを完全に表せる方法などない。しかも、火災の動向を決定する要因は星の数ほどあるので、火災のモデル化は極めて複雑である。
例えば、大気中の二酸化炭素含有量が多い世界で木々の成長が促進される可能性がある場合、森林はどのように発達するのかをモデルは考慮しなければならない。植物集団がどのように変化するか(増加する種もあれば減少する種もあるだろう)、そして干ばつや降水がどのように燃料となる茂みの量に影響を与えるかについても考慮する必要がある。降水量が多い年は多くの植物が生育し、そのあと干ばつが続くと、枯れた大量の植物が山火事の燃料となる。
「火災とは、正解を出すためにモデルを延々とつなぎ合わせてやっとたどり着く最終地点です」と気候科学者のサンダーソンは言う。生態系に影響を与える可能性のある一部の小さな変化をモデル化するのはまだ簡単だが、それらを全部まとめてモデル化して正確な結果を出すことは困難だ。
「木々が温暖な気候にどのように反応するのかモデル化した、非常に包括的な森林のモデルは存在します」と、サンダーソンは言う。「気候に関する非常に包括的なモデルや、各地域に特化した火災のモデルもあります。しかし、それらをひとつにまとめて算出した結果に対して自信がもてる段階ではないのです」
モデルの想定を越えた乾燥が問題に
別の問題も存在する。これほど複雑なモデルを実行するにはスーパーコンピューターが必要になるが、これは非常にコストがかかる。このため科学者たちは、モデルを微調整するためにテストランを続けることができないのだ。
「ひとつのシミュレーションを実行するには膨大な量のエネルギーと計算が必要になります」と、サンダーソンは言う。「モデルの計算コストが非常に高いので、複数回の計算を実行する余裕がないという気候科学における窮地に陥っているのです」
そして『Nature Climate Change』の特集に貢献したほかの研究者らが指摘しているように、今シーズンの森林火災の前例のない規模と、それを悪化させた乾燥した暖かい気象条件は通常の枠をはるかに超えていた。
「過去2年間にわたり干ばつが長く広範囲に続いたので、オーストラリア東部の森林地帯全体が極端に乾燥していました。このため、湿った峡谷や南向きの斜面、沼地など『自然の防火帯』となるものがすべて消滅し、地域全体がひとつにつながった燃料地帯になってしまったのです」と、西シドニー大学の火災科学者で記事のひとつを執筆したマティアス・ボーアは、『WIRED』US版の取材に回答している。
ニューサウスウェールズ大学では、気候変動が最近の火災にどのように影響を与えたのか正確に解明しようとする研究が進められている。だが、この研究チームは、気候変動によってひどい干ばつがより頻繁に起こるようになり、より短期間でオーストラリアの森林が燃えやすい状態に変わることを確実視している。つまり、乾燥して暑く風の強い気候によって森林火災は悪化し、乾燥した熱風が一帯を乾燥させ、森林火災の燃料に変えるのである。
ますます難しくなる気候研究
このようにカラカラに乾燥した状況がさらに破壊的な火災につながるのだが、今年発生した森林火災はまさにこのケースであった。オーストラリアの森林は主に「温帯広葉樹と混合林」によって構成されており、なかでもユーカリの木が多い。過去20年の衛星データを見ると、過去の火災による森林焼失率の年間平均は1パーセントだが、今シーズンの火災による焼失率は21パーセントにも達した。
そして、これらすべてが積み重なることにより、科学者にとって別の問題が生じている。一般的な気候変動の研究も、森林火災に与える影響を専門とした研究も、ますます難しくなっているのだ。
例えば、クイーンズランド州西部で鳥を研究しているクイーンズ大学の保全科学者ジェームズ・ワトソンは、次のように語っている。「いまのところ、そこで夏にフィールドワークを実施することは不可能だと一般的に言われています。暑すぎて危険なので、物理的にできないのです。15年前ならかなり容易だったはずなのですが」
ロイヤルメルボルン工科大学の気候変動およびレジリエンス研究プログラムを共同で率いるワトソンとローレン・リカーズは、オーストラリアの科学者が気候変動とそれに伴うスーパーファイヤーに対してどのように取り組んでいるかについて、『Nature Climate Change』に書いている。
長期観察中の生態系が焼き尽くされ、森林火災によって研究に不可欠な施設や車両が破壊されてしまった。極端な気候によってもたらされた別の自然災害について、ワトソンとリカーズは次のように書いている。「先月、激しいあられが降ってキャンベラの温室65個が被害を受け、何年にもわたる実験が水の泡になった。残念なことにそれらの一部では、気候変動に対する作物の回復力をテストしていた」
「気候変動の影響がどのように社会全体に跳ね返ってくるのかを考えているときに、これらの影響が研究プロジェクトや研究施設にも跳ね返ってくることに気づき始めました」と、リカーズは言う。「研究者とは気候変動を遠くから眺めている目撃者を装っており、隔離された場所で影響を受けずに観察している──そんな考えをいますぐやめて、自分たち自身が影響を受けているのだと認識する必要があります」
今後起こりうる災害の前兆でしかない
現代科学は何世紀にもわたって、季節の移ろいや生物種の移動、特定のオーストラリアの森林で数十年に1回火災が発生することなど、かなり一貫性があると考えられていた世界を徹底的にカタログ化してきた。しかし、現在の科学者が研究対象にしているのは、より危険で混沌とした世界である。
「極端な気象現象や、研究対象となる土地における長期的な変化、研究参加者が晒されているプレッシャーなど、いくつものリスクがあります。これらを実際に認識していなければ、研究は大きく混乱することでしょう」と、リカーズは指摘する。
わたしたちはこの世界を、人間やコンピューターの予測能力を超えた温室に変えてしまった。オーストラリアの大規模火災は、今後起こりうる災害の前兆でしかない。
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