免疫反応に重要な役割を果たすタンパク質「補体」をターゲットとした薬剤の開発が国内外で活発に行われています。国内では2010年以降、特発性夜間ヘモグロビン尿症などの疾患を対象に4つの薬剤が承認。臨床試験の段階にも多くの品目が控えており、幅広い疾患を対象にさまざまなモダリティが開発されています。
国内では4成分が承認
補体は血液中に存在するタンパク質で、抗体とともに免疫系で重要な役割を担っています。補体には大きく「C1」から「C9」の9つの成分(Cは英語で補体を表すComplementの頭文字)があるほか、関連する因子も複数存在し、補体系と呼ばれる複雑なシステムを構成。補体は連鎖的に活性化して免疫反応を起こし、ほかの免疫細胞とも協力しながら細菌など体内に侵入した病原体を排除します。
補体の活性化経路には、▽抗原に抗体が結合して形成された免疫複合体に補体(C1)が結合することで起こる「古典経路」▽補体(C3)が抗体を介さず病原体に直接結合することで起こる「副経路(別経路、第二経路)」▽レクチンの1種であるマンノース結合レクチン(MBL)が病原体に結合し、補体(C4)が活性化されることで起こる「レクチン経路」――の3つがあります。
これらの反応は生体防御にとって非常に重要ですが、一方で補体の過剰な活性化はさまざまな炎症性疾患を引き起こすことが知られています。補体をターゲットにした薬剤は、補体の過剰な活性化を抑えることで治療効果を狙っており、国内ではこれまでに4成分が承認を取得しています。
先駆けとなったのはアレクシオンファーマの抗C5抗体「ソリリス」(一般名・エクリズマブ)で、日本では「発作性夜間ヘモグロビン尿症における溶血抑制」を対象に2010年4月に承認。その後、非典型溶血性尿毒症症候群における血栓性微小血管障害の抑制、全身型重症筋無力症、視神経脊髄炎スペクトラム障害の再発予防へと適応を広げました。19年には長時間作用型の抗C5抗体「ユルトミリス」(ラブリズマブ)も承認。維持期の投与間隔が長くなり、利便性が高まりました。
C5は3つの補体活性化経路のすべてに関与しており、創薬標的として重視されてきた経緯があります。キッセイ薬品工業が21年に承認を取得した顕微鏡的多発血管炎・多発血管炎性肉芽腫症治療薬「タブネオス」(アバコパン)も、C5の活性化によって生成されるC5aの受容体に対する拮抗薬。同薬は米ケモセントリクスが創製し、キッセイは米国を除く全世界の権利を持つビフォー・フレゼニウス・メディカル・ケア・リーナル・ファーマ(スイス)から日本での開発・販売権を取得しました。
一方、今年3月に承認されたSwedish Orphan Biovitrum Japan(Sobi Japan)の発作性夜間ヘモグロビン尿症治療薬「エムパベリ」(ペグセタコプラン)はC3を阻害するペグ化ペプチド。臨床試験では、ソリリスを投与してもヘモグロビン値が十分改善しない患者で有効性が確認されおり、C5阻害薬で十分な効果が得られない患者に対する選択肢となります。
核酸や遺伝子治療も
開発段階にも多くの新薬候補が控えています。
中外製薬は今年6月、自社創製の抗C5抗体クロバリマブを発作性夜間ヘモグロビン尿症治療薬として申請しました。抗体が繰り返し抗原に結合する独自のリサイクリング抗体技術を適用し、低用量で持続的な効果を実現。皮下投与を可能とし、点滴静注のソリリスやユルトミリスと差別化します。
クロバリマブは日本より一足早く中国で申請し、22年8月に当局によって受理。欧米でも日本とほぼ同じタイミングで申請を行いました。非典型溶血性尿毒症症候群の適応でもグローバル臨床第3相(P3)試験が行われているほか、海外ではスイス・ロシュが鎌状赤血球症とループス腎炎を対象に開発を進めています。
国内では、ユーシービージャパンのC5阻害薬ジルコプランナトリウムも全身型重症筋無力症を対象に申請中。8月の薬事食品衛生審議会医薬品第一部会で、「ジルビクス」の製品名で承認が了承されました。同薬は大環状ペプチドで、同疾患としては初の皮下注製剤となる見込みです。
アステラス製薬は8月、C5を阻害するRNAアプタマー「IZERVAY」(一般名・avacincaptad pegol)について、地図状萎縮を伴う加齢黄斑変性の治療薬として米国で承認を取得。その後、欧州でも申請が受理されました。同薬は7月に買収した米アイベリック・バイオが開発したもので、アステラスはブロックバスター化を期待しています。
加齢黄斑変性は補体標的薬の開発が盛んな領域の1つで、今年2月には米アペリス・ファーマシューティカルズのC3阻害薬「SYFOVRE」が米国で承認。iptacopan(スイス・ノバルティス)やdanicopan(英アストラゼネカ)といった低分子のほか、ノバルティスは遺伝子治療薬の「PPY988」を、ロシュは米アイオニス・ファマシューティカルズと共同でアンチセンス核酸医薬の「RG6299」を開発しています。
iptacopan、danicopan、PPY988、RG6299はいずれも、活性化経路の副経路に関わる因子を標的としており、それぞれ加齢黄斑変性以外の疾患でも開発が進行中。米アルナイラム・ファーマシューティカルズは、C5に対するRNAi治療薬cemdisiranを開発しており、IgA腎症などの補体介在疾患を対象に臨床試験を進めています。
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