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Monday, April 24, 2023

国産量子コンピューター初号機 大規模集積化に照準 - 日本経済新聞

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今年3月、埼玉県和光市にある理化学研究所で日本の量子コンピューターの初号機が稼働した。量子ビット数は53個と世界のトップランナーに比べるとやや少なく、性能指標である量子ビットのコヒーレンス時間(量子的な状態を保って計算できる時間)は1桁低い。それはこのコンピューターが当初の性能よりも、今後量子ビットを1000個,10000個と集積し、最終ゴールである「FTQC(エラー耐性量子コンピューター)」につなげることを重視して設計されているためだ。

量子コンピューターの基本素子である量子ビットは外界のノイズに極めて敏感で、計算中にしばしばエラーを起こす。現在の量子コンピューターはどれも、計算を長く続けるとエラーが起きて正答率がゼロに近くなるため、ごく小規模な計算しか実行できない、いわゆる「NISQ(エラーのある小・中規模の量子コンピューター)」と呼ばれる段階にある。2019年にグーグルが量子コンピューターに有利な特殊な計算でスーパーコンピューターを上回ったものの、実用的な計算でスパコンを超えるアプリケーションは見つかっていない。

量子コンピューターが化学計算や材料開発で期待されている威力を発揮するには、計算中に生じるエラーを訂正する機能を組み込むことが不可欠だ。それには最低でも100万量子ビットを集積する必要があり、その実現方法はまだわからない。

だが、仮にもし今より精度が2桁高い量子ビットを1万個集積できれば、「部分的にエラー訂正をしながら計算を進めることが可能になる」と、大阪大学の藤井啓祐教授は話す。「新材料の物性予測など一部では、スパコンにはできない計算が実行できるかもしれない」(藤井)。このクラスの量子コンピューターは、NISQとFTQCの間をつなぐ「Early-FTQC」と呼ばれ、今後数年から10年ほどの中長期目標として、近年急浮上してきた。

今回稼働した日本の量子コンピューターは、NISQからEarly-FTQCへと拡張していくための、理論と実験のテストベッドとして設計されている。そのために量子ビットを、現在最も有力なエラー訂正方法を実装するのに適した正方格子の形に配置した。

その際にネックになったのが配線だ。各量子ビットには、その状態を制御したり、読み出したりするための配線をする必要がある。最終的にはすべての配線をチップの外周から引き出さなくてはならないが、量子ビットの数がn×nで増えていくとき、配線を引き出せる外周の長さはnに比例する形でしか増えないので、早晩限界に達してしまう。

2018年に今回の量子コンピューターの開発が始まったとき、中村泰信・理化学研究所量子コンピュータ研究センター長は、配線をチップの面内ではなく、チップと垂直な方向に配置することを決断した。量子ビットの制御は難しくなるが、配線どうしがぶつからず、原理的にはいくらでも量子ビットを増やすことができる。このほか量子ビットの制御法も、拡張性を重視した方法を採用した。

日本は1990年台に超電導を使った量子ビットの開発で世界に先駆け、息の長い研究を続けてきた。だが2014年に一度、実現性は薄いと判断し、国の開発プロジェクトを中止した経緯がある。その直後に米のグループが高精度の5量子ビット量子コンピューターを開発し、世界的な開発競争が過熱した。日本も急いで国のプロジェクトを再開したが、ほぼ2年出遅れた。

中村センター長は会見で、量子コンピューターの開発段階について「富士山なら(麓と5合目を結ぶ)富士スバルラインに入ったところ」だと語った。エラー訂正ができるFTQCの実現という頂上はいまだ雲の上だが、そこに至る道筋は見え始めた。後発となった日本が今後その道を最速で進んで行けるかどうか、今回の量子コンピューターの発展にかかっている。

(編集部 古田彩)

詳細は4月25日発売の日経サイエンス2023年6月号に掲載

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