今年6月、下咽頭(いんとう、のど内部の下の方)にがんが見つかり、59年の人生で初めて病気による入院を経験した記者が、みずからの治療経験を振り返りました。
「手術は当然」と思っていましたが、主治医の判断は放射線治療と抗がん剤の併用。先端技術の印象が強い放射線治療ですが、意外にも活躍したのは「フェルトペン」でした。
第1回<59歳で思わぬ診断>
第2回<5年相対生存率は…>
◇ ◇ ◇
主治医によると、今回使う抗がん剤、シスプラチンは副作用が強く、とりわけ腎臓へのダメージが大きい。3週間ごとに計3回投与するのが基本で、1回につき前日から10日ほど入院、退院後10日ほど自宅で療養し、また投与のため10日入院することを3回繰り返す。
自宅で腎不全を起こすと手遅れになる可能性があり、投与から10日程度は患者から目を離せないためだという。「だから10日×3回の入院ね。合間の退院中も出勤はやめてください」と指示され、淡い望みは一瞬でついえた。
入院はベッドが空く6月29日からと決まり、放射線治療も入院初日から計35回受けることになった。土日を除く1日1回、自宅療養中も毎日通院しなくてはいけない。
それに備え、6月20日には同じ病院内の口腔(こうくう)外科で歯の手入れ具合などを確認された。放射線治療を受ける際、虫歯などを放置しているとがんの治療効果が下がるだけでなく、抜歯時などにあごの骨が壊死(えし)することもあるという。
また6月24日には放射線の細かな当て方や線量を決めるためのCT撮影があった。X線を当てるべき患部を正確に描き出し、正常部位への照射をなるべく避ける「設計図」を作る。
この病院は「強度変調放射線治療」(IMRT)と呼ばれる画期的な放射線治療を可能とする設備を整えている。通常の治療だと、腫瘍をたたくのに十分な線量を当てると患部周囲の正常な神経や筋肉まで過剰な線量を浴びてしまう。
それがIMRTなら放射線ビームに強弱をつけ、正常組織への線量を抑えつつ、複雑な形状の患部でも形に合わせて強く照射できる。病巣をピンポイントで狙いながら正常組織へのダメージは軽減する、コンピューターを駆使した先進技術のたまものだ。
かと思えば照射位置の精度を補完する目印として、胸や二の腕には油性のフェルトペンで十字の線を引かれた。「風呂でこのマーキングを消さないように。消えたらCTからやり直しで治療が遅れて効果も下がります」と放射線技師。
先進技術による照準設定と、マンガに出てくる傷痕のような手書きの印の落差につい苦笑した。照射中、顔や体が動かないようにする専用のマスク、腕や肩の形状に合わせた固定具も作…
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