JSR名誉会長の小柴満信氏に聞く
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量子コンピューターで米IBMや英ケンブリッジ大学などと提携し、国内のさまざまなコンソーシアムなどでも中心的な役割を果たしているのが、半導体材料やライフサイエンス事業などを手掛けるJSRだ。同社の名誉会長である小柴満信氏に量子コンピューターへの取り組みや狙いなどを聞いた。(聞き手は楊 天任=QunaSys CEO、松原 敦=クロスメディア編集部)
小柴満信(こしば・みつのぶ)
JSRは量子コンピューターに関して、国内外の大手企業や大学などとさまざまな協業体制を取っています。背景や狙いについて教えてください。
JSRは半導体関係の材料を手がけていることから、「ムーアの法則はいつまで続くのか」ということをいつも考えています。そんな中、量子とAI(人工知能)の専用半導体を組み合わせた新しいコンピューティングの可能性が出てきたことに興味を持ちました。そこで米IBMと連携しました。
ただ、IBMだけを見ていては世界の動きを見間違えるかもしれないので、英ケンブリッジ大学からスピンオフした英Cambridge Quantumに出資することにしました。同社はその後、米Honeywellの子会社で量子コンピューターを開発する米Honeywell Quantum Solutionsと合併して、(社名が)英Quantinuumとなりました。これによってIBMの超電導型とQuantinuumのイオントラップ型の量子コンピューターにアクセスできるようになりました。
日本では東京大学の大学院理学系研究科物理学専攻と包括提携しました。量子コンピューターを使うと、極めて複雑なシミュレーション計算が可能になります。これにより、難解な問題が多いエンジニアリングの課題をできるだけしっかりモデリングしたいと考えています。
他にも、(一般社団法人の)「量子ICTフォーラム」や(産学官連携の)「量子技術による新産業創出協議会」(Q-STAR)に参加しています。「量子インターネットタスクフォース」(QITF)のメンバーともよく話をしています。そのような集まりと緩い形で結びつきながらアンテナを張っています。
本当に幅広く活動されています。
いつのまにか有識者的な位置付けになってしまいました。ありがたいのは、若い人たちがいろいろと相談を持ってきてくれることです。量子ICTフォーラムは地に足が着いた活動をしているところが素晴らしく、いい団体だと思っています。
そもそも量子コンピューターにかかわるようになったきっかけは何ですか。
(副代表幹事を務める)経済同友会で4年ほど、デジタル革命に関して研究や考察をしたことがスタートです。日本の競争力は、デジタルでいうと2周3周遅れとか言いわれていて、悔しい思いをしました。それに甘んじていないで、(量子コンピューターについては)早く先回りして準備したらいいでしょう、というのが最大の動機です。
2021年、IBMの量子コンピューターが日本に設置されました。これまではニューヨークの量子コンピューターにアクセスしていたので、1つ走らせるのに2週間かかっていたことが2時間でできるようになったんです。大学生がこれを使い倒すと、米国でスティーブ・ジョブズやビル・ゲイツが出てきたような、そういった人材が生まれてくると思います。「1万時間の法則」というのがありますが、それだけ使い倒すと天才の中でも大成功する人が出てくるでしょう。
世界と日本で量子コンピューターへの取り組みはどう違っていますか。また、日本ではどんなことが必要でしょうか。
世界はすごく動いています。日本が一番遅れているところは、量子インターネットの通信の部分ではないかと感じています。量子コンピューターに関してはまだハードウエアがNISQ(Noisy Intermediate Scale Quantum、ニスク)マシンなので、それほど大きな差はついてない感じがします。
量子コンピューターの開発は、IBMやGoogleといった大企業が先行しているイメージがあります。小さな会社やスタートアップなどが対抗できるのでしょうか。
確かに量子ゲート方式は大きな企業が強いですが、他の方式では可能性があると思います。例えば米(スタートアップの)IonQは20億ドル資金を調達しています。かなりのところまではスタートアップでやれると思います。
このほか、半導体技術を持っているところは有利になるかもしれません。今のNISQマシンを使うのに、CMOSの技術が必要で、社内に多量、かつ、さまざまな分野のエンジニアを抱えるという意味で大企業のアドバンテージはありそうです。
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