脳にあってコンピューターにはないもの
養老孟司氏が脳に関する疑問について解説します(写真:deliormanli/iStock)
脳とコンピューターの違い
脳をどのように考えるか、おそらく現代社会でいちばん通りがいい見方は、脳を「情報系」と見ることです。脳が情報を取り扱う器官だということは、よくわかると思います。脳には一方から入力され、他方、脳から出力される。入力と出力の間に介在して、さまざまな調整を加えるのが脳。こう考えるとわかりやすい。ということは、コンピューターと同じだということです。
具体的には、見る、聞く、触る、味わうといった感覚が脳への入力となって、その入力によって脳の中で何かが起こって、出力されます。その出力とは何かというと、普通の状態で言えば運動です。
今皆さん私の話を聞いてメモをとっている。それは私の出している音声が入力として入って、それが言語として理解され、さらにそれが指の運動によって外に出される、その種の機械が脳です。そう考えると、そう面倒くさい問題ではない。出力は運動だけに限らず、汗をかくとか、ホタルが光るとかいくつかありますが。
ただし人の場合、出力はすべて運動で、これは骨格筋に完全に頼っています。一般的にわれわれが日常生活で脳を考える場合に、出力としては筋肉、入力は五感と考えてよいと思います。
脳をこう考えますと、多くの方が直ちに疑問を持つ。それは、入出力系として脳を考えた場合、非常に困ることが脳にあるからです。その典型が意識と呼ばれるものです。こんなものはコンピューターにないでしょう。もう1つは感情です。コンピューターが怒ったり泣いたりはしないでしょう。いきなりこんな話をするのはかなり極端だと思いますが、最初から話します。
まず意識とは何かという問題です。ご存じのように意識とは脳が自分の機能を知っていることです。脳の機能を繰り返している。自分はこう考えているんだな、というようなことですね。そういうことから考えると、意識というのは単一な要素でできていないだろうということが想像され、事実そうです。
つまりわれわれが意識を保つためには、脳の中の複数の場所が活動しているということです。それは脳幹と大脳皮質です。この脳幹と大脳皮質の両方が健全でないと意識がなくなります。ただし、意識には種類があります。
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