「未曾有の豪雨災害」。ここ数年、毎年耳にするフレーズであるが、7月、熊本県・球磨川では、観測史上最高だった1965年の水位を大幅に上回り、12カ所で堤防決壊や氾濫が生じて大きな洪水が発生した。こうした災害は今後も全国各地で続くと考えられ、治水事業だけに頼らない、新たな備えが求められている。
今回の球磨川における水害では、洪水が発生するまでの間に、住民には避難するタイミングがあったのだろうか。洪水が起きた7月4日の前日昼から、球磨川の水位の変化と各水位の説明を記載したのが図である。ぜひ読者にも、自分が球磨川周辺に住んでいると想像して考えてもらいたい。 球磨川では、6時前にはすでに周辺で氾濫が始まり、6時30分に気象庁から氾濫発生情報が出されている。そして、渡水位観測所の数値は、7時の12メートル55センチの記録を最後に観測が途絶えた。多くの住民が寝ている間にあっという間に水位が上昇し、洪水が発生したことがわかる。 ここで重要なのは、こうした水位上昇のスピードは河川によって大きく異なるということだ。大河川の下流部における水位上昇は遅く、台風一過の青空の下で破堤した事例もある。そのため、各地域における水位上昇速度の特徴などについて、住民はあらかじめ理解しておく必要がある。
水害ハザードマップには 「リスク」は示されていない
そうした地域ごとに違う河川の水害リスクを知るにはどうしたら良いのか。市区町村は「水害ハザードマップ」を公開している。「ハザード」とは潜在的に危険性を有するものを意味する。残念ながらハザードマップに示されているハザードは「ある雨量に対して生じうる最大の浸水深(浸水時の地面から水面の高さ)」が示されているに過ぎない。実際には、さまざまな浸水深になる可能性があり、それぞれの浸水深になる確率もさまざまである。 一方、「リスク」は、ハザード(Hazard)×暴露率(Exposure)×脆弱性(Vulnerability)の式で算出できる(図参照)。堤防が壊れたときに浸水深が深くなる地域でも、そこに住む人々が少ない(暴露率が低い)、または避難などがスムーズにできる体制が整っていれば(脆弱性が低ければ)水害リスクは低くなる。 結局、自らのリスク、つまり、われわれの居住する家が浸水し始めるのは、どの程度の雨量だろうか。東京都を流れる多摩川を例に考えてみたい。多摩川沿川の自治体の水害ハザードマップには「想定される最大の降雨量」である、「2日間で588ミリの雨が流域全体に降った場合」の最大浸水深が示されている。すなわち、これ以上起こり得ない規模の雨が降り、かつ、自分の家にとって一番「当たり所の悪い」場所で堤防が決壊したときに想定される浸水深が示されている。 この「想定される最大の降雨量」は、一年あたりに生じる可能性が0.1%、すなわち1000年に一度と表現される規模に相当することが多い。しかし、多摩川の河川整備における最終目標は、「200年に一度の雨でも溢れない川」であり、2日間で488ミリの雨までを流下させようとしている。そのため、2日間で488ミリを上回れば、河川整備が完了しても氾濫してしまう。加えて、その目標達成はまだまだ先で、今後20~30年で到達しようとしている目標は、1964年に東京都狛江(こまえ)市で堤防が決壊した時に降った「2日間で388ミリ程度」の雨量に耐えうる川である。 現状では、この目標にも到達していない箇所が点在しており、2019年10月の台風19号では多摩川沿いの数カ所で氾濫が発生した。このように、河川堤防には、高さが足りない場所や、堤防が変形しやすい箇所、堤防下の地盤で水が抜けやすい箇所など、氾濫の可能性が高い危険箇所が存在する。 こうした氾濫の可能性の高い所がわかっているならば、そこを強化すれば良いだけのように感じられるが、土地の所有者の合意が得られなかったり、そこを補強すると別の地域のリスクが増大したりと、さまざまな事情があって補強できていないものもある。既に道路や線路があることから、必要な高さや幅を確保できない堤防も多い。
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October 02, 2020 at 04:00AM
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