直木賞を受賞した川越宗一の小説『熱源』(文藝春秋)や野田サトルの漫画『ゴールデンカムイ』(集英社)など、アイヌを題材にした作品が話題の昨今。萱野茂『アイヌと神々の物語 炉端で聞いたウウェペケレ』は、その文化を知る一助ともなる一冊だ。ウウェペケレとは「昔話」といった意味合いで、アイヌ語研究者である著者が自身の故郷の北海道沙流地方で録音・採集したウウェペケレが収録されている。
神や大蛇が出てくるなど不思議なことが起きる物語が多いが、各話に解説が付き、その話を採集した際のエピソードや出てくる民具などの丁寧な紹介があり、文化・習俗を学べる。
神話や民話はさまざまな文化に影響を与えてきた。その筆頭はギリシア・ローマ神話だろうが、北欧神話もそのひとつ。巨人やいたずら好きの神、ロキなどは有名だが、もっと知りたいという人にはV・グレンベックの『北欧神話と伝説』(山室静訳、講談社学術文庫)を。太古の時、ギンヌンガガップと呼ばれる空隙の北には寒気きびしいニフルハイムが、南には炎燃えさかるスペルハイムがあり、氷塊が融けた雫から巨人ユミールが生まれ……という世界の成り立ちから始まり、さまざまな神話が紹介されていく。物語は多岐にわたり主要人物も多く、こちらもかなりの充実度で、初心者なら一気読みするというよりはじっくり読みたい。
架空の設定なのに絶大な人気を誇るのはクトゥルー神話だ。生みの親は1890年にアメリカ、ロードアイランド州に生まれた作家、ラヴクラフト。彼が執筆した怪奇小説に登場する土地や神々を、彼の友人の作家や詩人たちも借用して作品世界を広げ、昨今では文学だけでなくゲームやアニメでも題材とされている。H・P・ラヴクラフト『インスマスの影 クトゥルー神話傑作選』(南條竹則編訳、新潮文庫)はタイトル通りの傑作ぞろい。クトゥルーとは支配者的な邪神の名前であり、神話といっても暗黒神話。どの話もひたひたと恐怖がしのびよる展開で、震え上がるほど怖く、とてつもなく面白い。
[レビュアー]瀧井朝世(ライター)
1970年生まれ、東京都出身、慶應義塾大学文学部卒業。出版社勤務を経てライターに。WEB本の雑誌「作家の読書道」、文春オンライン「作家と90分」、『きらら』『週刊新潮』『anan』『CREA』などで作家インタビュー、書評、対談企画などを担当。2009年~2013年にTBS系「王様のブランチ」ブックコーナーに出演。2017年10月現在は同コーナーのブレーンを務める。
新潮社 週刊新潮 2020年4月23日号 掲載
新潮社
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