Dウエーブ・システムズとの協業検討を説明するNECの西原基夫取締役執行役員常務
NECは次世代の超高速計算機として期待される量子コンピューター事業に本格参入する。カナダのスタートアップ、Dウエーブ・システムズと協業し、量子コンピューターの活用に不可欠なソフトウエアを共同開発する。量子コンピューターを疑似的に再現したコンピューターで商用サービスも2020年に開始する。米グーグルが今秋、開発の成果を発表するなど、競争が激化する中、20年前にいち早く量子コンピューターの原型の開発に成功した"老舗"が巻き返しに動く。
「Dウエーブとの協業検討は大きなステップだ」。NECの西原基夫取締役は20日、都内で開いた量子コンピューター参入の説明会でこう強調した。NECはDウエーブへの出資を検討しており、額は1000万ドル（約十数億円）に上る見込みだ。
Dウエーブは11年、世界で初めてグーグルなどとは異なる「量子アニーリング方式」と呼ばれる商用の量子コンピューターを開発。多数の物流ルートの中から最も効率の良いルートを選ぶなど、組み合わせの中から最適な解を見つけることに特化したコンピューターだ。同社は米航空宇宙局（NASA）など200以上の試行事例を持つ。
NECが開発している量子コンピューター
NECとDウエーブがまず取り組むのは、ソフト開発だ。現状ではソフト技術の開発が遅れており、量子コンピューターの性能を十分に引き出せるものが少ないとされているからだ。
Dウエーブとの協業には別の狙いもある。NECは国立研究開発法人の新エネルギー・産業技術総合開発機構（NEDO）と共同で、量子アニーリング方式の量子コンピューターの開発に取り組んでいる。23年の実用化を目指しており、「先に実用化したDウエーブからシステム周辺の技術に関するノウハウを得たい」（NEC関係者）との思惑があるからだ。
NECは量子コンピューター開発の老舗だ。1990年代にいち早く開発を始め、99年には世界で初めて量子コンピューターの基本要素である量子ビットを作動させるのに成功。2003年には世界初となる処理能力が2ビットの量子コンピューターを動かした実績も持つ。その後、NECの業績が悪化し、量子コンピューターの開発部隊は縮小した。
現在、量子コンピューターの開発競争は熱を帯びつつある。米グーグルは10月、世界最先端のスーパーコンピューターでも1万年かかる計算問題を、開発中の量子コンピューターを使い、わずか3分20分で解き終わったと発表した。グーグルが開発するのは「量子ゲート方式」と呼ばれる量子コンピューター。IBMやインテルなど米IT大手も開発に巨費を投じている。
ただ量子ゲート方式は広範囲の分野に活用できるなど汎用性が高い半面、計算能力を高めるための計算機の大規模化が難しいという課題もある。こうした状況から本格的な量子ゲート方式の実用化は20～30年先になると言われている。
出遅れたNECはDウエーブと協業して巻き返しを図る。20日の説明会では、20年1月に社内に専門部署「量子コンピューティング推進室」を設置することや、量子コンピューターの活用法の相談を受け付けるなどの有償サービスを20年6月に開始することを発表した。推進室は当初、20人体制で、量子コンピューターで解決できる金融や創薬、物流といったビジネスの課題を顧客企業と検証する取り組みを始める。
有償サービスは今年11月に開発したスーパーコンピューターと専用ソフトを組み合わせて量子コンピューターを疑似的に再現した「アニーリング」と呼ばれる方式のコンピューターを使う。正式な量子コンピューターほど高速ではないが、従来の同社のシミュレーション機と比べ300倍以上の速さで計算できるという。
アニーリング方式で顧客ニーズを探るなどの知見を蓄積しながら、量子アニーリング方式の開発も加速する。今後本格的に立ち上がる量子コンピューターの市場形成にいち早く参画し、捲土（けんど）重来となるか。量子ゲート方式の開発状況もにらんだ事業戦略もNECには問われそうだ。（林英樹、生川暁、島津忠承）
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December 20, 2019 at 08:54PM
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NEC、量子計算機で巻き返し 疑似再現機を来年商用化 - 日本経済新聞
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