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Friday, December 27, 2019

グーグル量子コンピューターの本当のすごみ - 日本経済新聞

日経サイエンス

去る10月、グーグルを中心とする研究グループが、世界最速のスパコンで1万年かかる計算を量子コンピューターで200秒で実行したと発表した。このニュースは量子コンピューターがスパコンを超えたとして大きく報じられたが、最も重要なポイントがしばしば見すごされている。それは量子コンピューターが「たった53個の素子で」スパコンをしのぐ計算を実行したことだ。

グーグルが開発した量子コンピューターは、0.2ミリ角の超電導素子を53個並べた量子チップ「シカモア」1個だけだ。対するスパコン「サミット」は数万個の画像処理半導体(GPU)と数千個のCPU(中央演算処理装置)、10ペタ(ペタは1000兆)バイトのメモリーを持つ超大型計算機で、素子数はメモリーだけで1京個を超える。つまり、たった53個の量子素子が、1京個を超える半導体素子を持つスパコンを桁違いのスピードで破ったのである。

グーグルが開発した量子コンピューターのチップ「シカモア」と、その中に並んだ量子素子(下)=Google提供

グーグルが開発した量子コンピューターのチップ「シカモア」と、その中に並んだ量子素子(下)=Google提供

量子コンピューターの本当のすごみはここにある。実行したのは量子コンピューターが最も得意とするタイプの計算で、量子側に有利だったとはいえ、この圧倒的な物量の差はただごとではない。何かとてつもないことが起きているのは容易に想像がつくだろう。

たった53個で、どうやってスパコンを超えることができたのか。それを知るには量子力学を見る必要がある。量子力学によると、物体は外から見られていないときは、相反する状態を同時に実現する。電子1個は右と左に同時に存在するし、光子1個はあちらとこちらに同時に飛んでいく。これを「状態の重ね合わせ」と呼ぶ。量子素子は、この重ね合わせになった状態の一方で1、他方で0を表し、両者の"重み"を自由に変えられるデバイスだ。グーグルの量子素子は、超伝導回路の中に電子ペアが「ある=1」と「ない=0」という2つの状態を同時に実現している。

0と1が重ね合わせになった素子同士を相互作用させると「量子もつれ」と呼ばれる関係になり、重ね合わせが全体に広がって、00、01、10、11の4つのデータが重ね合わさる。重ね合わせになるデータの数は、素子の数とともに倍々ゲームで増える。53個を量子もつれにすると、約1京通りのデータが重ね合わせになり、その情報量は10ペタバイトを超える。ただし素子の値を読み出すと、その瞬間に重ね合わせは消え、ちょうどサイコロを振るように、重ね合わせになっていたデータのどれかが出現する。

米国立オークリッジ研究所にある世界最速のスパコン「サミット」(U.S. Department of Energy, Oak Ridge National Laboratory提供)

米国立オークリッジ研究所にある世界最速のスパコン「サミット」(U.S. Department of Energy, Oak Ridge National Laboratory提供)

量子コンピューターはこの膨大な重ね合わせをメモリーとして利用している。素子のどれかに演算を施すと、重ね合わせになったデータのすべてが同時に演算され、結果が各データに上書きされる。これを繰り返すことで計算を進める。つまり量子コンピューターというのは、限られた数の素子に、重ね合わせによって膨大な情報を保存し、それらを同時並行で演算することで、計算に必要な演算の回数を劇的に節約するコンピューターなのだ。

量子コンピューターはスパコンの延長ではない。量子だけが持つ新しいリソースを使って高速で計算するマシンだ。理論的には30年前から予測されていたが、今回、その威力が初めて誰の目にも見える形で明らかになった。「量子による計算の爆発的な加速が本当にあることが示された。その意義は大きい」と、量子コンピューター理論の第一人者である藤井啓祐・大阪大学教授は話す。

量子コンピューターの絶大な計算能力は実証されたが、今後これをどんどん実用に使っていくことができるかというと、話はそう単純ではない。第一に、莫大な同時並行計算の結果はやはり重ね合わせになっているので、普通に読み出すと、どれか1つを残して後は消えてしまう。従って情報のごく一部を読み出すだけで意味のあるような、量子コンピューターに合った問題を探す必要がある。例えば新材料のシミュレーションや、暗号解読を可能にする素因数分解などが知られている。

だが今の量子コンピューターにはそれらの計算は実行できない。量子素子は極めて脆弱で、演算を繰り返すうちに重ね合わせがどんどん壊れ、エラーが起きてしまうからだ。今回の実験では最大1600回の演算を実行したが、正しい答えが得られた確率は0.2%。同じ計算を100万回繰り返し(これに200秒かかる)、約2000回正答を得た。だがこれ以上計算を続けるとエラーがさらに積み上がり、正答が見えなくなってしまう。

エラーを修正しながら計算を続ける方法はわかっているが、実現は技術的に極めて難しく、研究者の多くはあと20年はかかると予想している。今後はその最終ゴールを目指すとともに、驚異的な計算能力を持つが計算が続けられない今の中途半端な量子コンピューターを使って、何か意味のある計算ができないかを探索する研究が続くだろう。目下のところ化学計算と機械学習の分野が有望と期待されており、世界中の大学やIT大手、そして多数の量子ベンチャーが、新たな用途の探索にしのぎを削っている。

(日経サイエンス編集部 古田彩)

(詳細は12月25日発売の日経サイエンス2020年2月号に掲載)

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